新しい言葉「エモい」
「この写真、エモいね」
「この曲、めちゃくちゃエモい」
最近の若い人がよく使う「エモい」という言葉。なんとなく意味は分かるような気がしますが、では「エモいってどういう意味?」と聞かれると、意外に説明が難しい言葉です。
特に「懐かしい」「切ない」「美しい」「愛おしい」などが混ざり合ったような感情を表すことが多い言葉です。
つまり、「感動した」と言い換えれば終わり、という言葉ではありません。

「エモい」は英語の emotional から
「エモい」の「エモ」は、英語の emotional(エモーショナル)に由来します。
そこに日本語の形容詞を作る「~い」が付いて、
エモ + い → エモい
となったわけです。ただし、現在の「エモい」は単に「感情的だ」という意味ではありません。むしろ、「うまく言葉にできないけれど、何か心にくる」という感覚を表すと考えた方が分かりやすいでしょう。
「エモい」の使用例
「エモい」は辞書的な説明だけを読んでも、なかなか分かりません。そこで、実際に使われそうな場面を見てみましょう。
| 場面 | 「エモい」と感じる理由 |
| ① 昔の学校の写真を見る | 懐かしい+少し切ない |
| ② 夕焼けの中を電車が走っている | 美しい+寂しい+郷愁 |
| ③ 学生時代によく聞いた曲が流れる | 懐かしい+思い出+切なさ |
| ④ 古い商店街を歩く | 懐かしい+古さの味わい |
| ⑤ 卒業式のあと、誰もいない教室を見る | 寂しい+思い出+別れ |
| ⑥ 古いフィルム写真を見る | 懐かしい+美しい+温かい |
| ⑦ 映画で長年離れていた二人が再会する | うれしい+切ない+感動 |
| ⑧ 昔ながらの喫茶店に入る | 懐かしい+落ち着く+味わい |
| ⑨ 夏の終わりにひぐらしの声を聞く | 美しい+寂しい+季節が去る感じ |
| ⑩ 昔の恋人からもらった手紙が出てくる | 懐かしい+切ない+愛おしい |
こうして見ると、共通するものが見えてきます。
いくつかの感情が混ざり、しかもうまく言葉にできないときに使いやすい。
「うれしい」「怖い」はエモい?
ここが大切です。
「心を揺さぶられる」という説明だけなら、ジェットコースターに乗って怖かったときも、宝くじに当たってうれしかったときも「エモい」ことになってしまいます。
しかし、普通はそうは言いません。
| 状況 | エモい? |
| 宝くじに当たった | △ 普通は「うれしい」 |
| お化け屋敷が怖かった | × 普通は「怖い」 |
| 腹が立った | × 普通は「むかつく」「腹が立つ」 |
| 卒業式の夕方、誰もいない校舎を見る | ◎ エモい |
つまり、はっきり「うれしい」「怖い」「怒っている」と名前を付けられる感情ほど、「エモい」とは言いにくいのです。
「エモい」と「懐かしい」は何が違う?
「エモい」に最も近い言葉の一つが「懐かしい」です。しかし、この二つは同じではありません。
自分の過去や知っているものを思い出して感じる気持ち。
自分の思い出でなくてもよい。雰囲気や風景だけでも心を動かされる。
例えば、20歳の人が昭和30年代の商店街の写真を見ても、本当の意味では「懐かしい」とは言いにくいでしょう。自分が生まれる前だからです。
しかし、
「なんかこの写真、エモい」
とは言えます。ここに「エモい」の便利さがあります。
「エモい」「切ない」「感動的」の違い
| 言葉 | 中心となる気持ち |
| 懐かしい | 昔を思い出す |
| 切ない | 胸が苦しく、寂しい |
| 感動的 | 強く心を動かされる |
| エモい | そのどれか一つでは説明できない心の動き |
ですから、
懐かしい+切ない+美しい → エモい
寂しい+愛おしい+思い出 → エモい
という場合が多いのです。
実は「もののあはれ」に少し似ている?
ここまで考えると、日本の古典に出てくる「あはれ」を思い出す人もいるかもしれません。古典の「あはれ」も、現代語の「悲しい」だけでは訳せません。美しいものを見ても「あはれ」、人との別れにも「あはれ」、季節の移り変わりにも「あはれ」を感じます。
もちろん、「エモい=もののあはれ」ではありません。
しかし、
という点では、どこか似ています。
「エモいなんて最近の若者の曖昧な言葉だ」と思ってしまいますが、日本語には昔から、このような説明しにくい心の動きを表す言葉があったとも考えられます。
「エモい」の意味を説明する
外国人の日本語学習者に「エモい」を説明するなら、私は次のように説明するのが分かりやすいと思います。
「懐かしい」「切ない」「美しい」「愛おしい」など、いくつかの気持ちが混ざって、うまく一言で説明できないけれど、心が動かされる感じ。
そして、説明だけでなく、夕焼け、古い写真、卒業式、昔の音楽などの例をいくつか見せる。おそらくその方が、「感情を揺さぶられるという意味です」と説明するより、ずっと早く理解できるでしょう。
まとめ
● 基本は「心を動かされる感じ」
● ただし、単なる「うれしい」「悲しい」「怖い」とは違う
● 「懐かしい」「切ない」「美しい」「愛おしい」などが混ざることが多い
● 自分の思い出でなくても「エモい」と言える
● 一つの言葉では説明しにくい感情に使われやすい
「エモい」という言葉は、意味が曖昧だから使いにくいのではありません。
むしろ、一言では言えない気持ちだからこそ「エモい」という一言が便利なのです。
そう考えると、「エモい」という言葉が若い世代に広がった理由も、少し分かるような気がします。

以上です。




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