「違くない」は正しい日本語? なぜ「違わない」ではなく「違くない」と言うのか

「違くない」

「違くない??」

最近、こんな言い方をよく耳にします。

「それ、ちょっと違くない?」

意味はもちろん通じます。 しかし、学校で習う文法では「違う」の否定形は「違わない」です。

標準的な日本語:それ、違わない?
よく聞く言い方:それ、違くない?

「違くない」イラスト

では、なぜ本来は動詞である「違う」を、日本人自身が「違くない」と言ってしまうのでしょうか。実はこれは単なるデタラメな間違いではありません。 日本語の仕組みから考えると、「違くない」が生まれやすい理由があります。

「違くない」は現在の標準語では誤用

まず文法を確認しておきましょう。

「違う」は動詞です。

基本形否定過去て形
違う違わない違った違って

したがって、学校文法や標準的な文章では、

× 違くない
違わない  となります。
 日本語を勉強している人も、試験や作文、仕事の文章では「違わない」を使ったほうがいいでしょう。

では、どうして「違くない」が生まれた?

ここがおもしろいところです。
普通の動詞なら、このような間違いはあまり起こりません。
例えば、
行く → 行かない
書く → 書かない
話す → 話さない    
です。
「行く」を「行くない」、「書く」を「書くない」と言う人は、まずいません。ところが、「違う」だけは「違くない」と言いたくなる。

なぜでしょう?

理由① 「違う」は動詞なのに、意味は形容詞に近い

「走る」「食べる」「書く」などの動詞は、基本的に動作を表します。しかし「違う」は少し特殊です。

「AとBが違う」という場合、「違う」は何かの動作をしているわけではありません。「AとBが同じではない状態」を表しています。つまり、文法上は動詞なのに、意味としては「高い」「大きい」「赤い」のような状態や性質を表す形容詞に近いのです。

「違う」は「他と一致しない状態」を表すため、形容詞的な側面を持っているのです。

理由② 反対語の「同じ」と品詞が違う

さらに、おもしろい問題があります。
「違う」の反対語は「同じ」です。
ところが、学校文法で考えると、二つの品詞は同じではありません。

言葉意味品詞
同じ一致している形容動詞(ナ形容詞)
違う一致していない動詞

反対の意味を表す二つの言葉なのに、品詞が違うのです。

私たちの頭の中では、
「同じ ⇔ 違う」という一組の言葉として理解しています。
そのため「違う」も、「同じ」と同じように状態・性質を表す言葉として感じられやすいのでしょう。

理由③ 「おもしろい→おもしろくない」と同じ形を作ってしまう

そして、決定的なのが形容詞の活用です。

基本の形否定過去
おもしろいおもしろくないおもしろかった
高い高くない高かった
違い?違くない?違かった?

本来「違い」は形容詞ではありません。しかし日本語には「二人の考えには違いがある」「以前とは違い……」など、「違い」という形が頻繁に現れます。

その「違い」の最後の「い」を、形容詞の「い」のように感じると、

違い → 違くない
違い → 違かった
違い → 違くて

という形が、とても自然に作れてしまいます。「違くない」「違かった」「違くて」は、形容詞と同じパターンによって生まれたということですね。

「違くない」は意味のない間違いではない

つまり「違くない」は、単に日本人が文法を知らなくなったから生まれた言葉、と考えるだけでは不十分です。

「違う」は意味的には形容詞に近い。

そのため、日本語の中で「違う」を形容詞のように扱おうとする力が働き、

違わない → 違くない
違った → 違かった
違って → 違くて
という新しい活用が生まれていると考えることができます。

「違くない」は現在の標準語では誤用。
しかし、誤用にもちゃんと「生まれる理由」がある。

「違くない」は将来、正しい日本語になる?

では、「違くない」はこれからどうなるのでしょう。現在の標準語では「違わない」が正しい形です。ただし言葉は、多くの人が長い間使い続けることで変化します。最初は「間違い」「若者言葉」と言われていた表現が、やがて広く定着することもあります。

実際、「違くない」「違かった」などはすでに日本語研究の対象になっており、単なる言い間違いとして片づけられない現象になっています。将来「違くない」が標準語として認められるかどうかは、今の段階ではわかりません。

しかし、「どうして日本人は、こんな言い方をするようになったのだろう?」と考えてみると、日本語の変化のおもしろさが見えてきます。

まとめ

ポイント内容
標準語「違う」の否定は「違わない」
違くない現在は標準的な活用ではない
なぜ生まれた?「違う」が意味的に状態・性質を表し、形容詞に近いため
形の類推「高い→高くない」のように「違い→違くない」と作られたと考えられる
今後定着する可能性はあるが、標準語になるかはまだわからない

「違くない?」まとめ

参考文献

  • 国立国語研究所「『○○とは違って』というのを『違くて』『違うくて』という人がいますが、なぜですか」ことば研究館
  • 国際交流基金「日本語教育再考―規範文法と記述文法の接点から見えるもの」
  • 北原保雄 編『問題な日本語』大修館書店、2004年

以上です。

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