大阪弁入門、さらに10語(№21~30)
大阪弁入門の第3回です。第1回では「あかん」「ほんま」「なんでやねん」などの最初の10語、第2回では「ええ」「ほな」「しゃあない」「~へん」など、さらに10語を紹介しました。
大阪弁には、まだまだ覚えておくと面白い言葉があります。今回は、標準語話者が聞くと意味を取り違えやすい言葉や、大阪人の気質が感じられる言葉を中心に、さらに10語を紹介します。
以下の10語です。
| 大阪弁 | 標準語では | 会話のポイント |
| ① アホ | ばか | 悪口とは限らない |
| ② しんどい | 疲れた・つらい | 体にも気持ちにも使う |
| ③ ぼちぼち | そろそろ・まあまあ | 意味が一つではない |
| ④ ぎょうさん | たくさん | 昔ながらの関西らしい表現 |
| ⑤ いらち | せっちな人 | 待つのが苦手な人 |
| ⑥ なおす | 片づける | 「修理する」とは限らない |
| ⑦ ほかす | 捨てる | 「放っておく」ではない |
| ⑧ さら | 新品 | 皿のことではない |
| ⑨ べべ | 最下位 | 順位のいちばん最後 |
| ⑩ こそばい | くすぐったい | 体にも気持ちにも使う |
① アホ
「アホ」は標準語の「ばか」に近い言葉です。
「アホなこと言うな」なら「ばかなことを言うな」、「あいつ、アホやなあ」なら「あいつ、ばかだなあ」となります。
しかし大阪では、「アホ」は必ずしも強い悪口ではありません。親しい友人に笑いながら、
「アホやなあ、お前」
と言うこともあります。この場合は、本気で相手を侮辱しているというより、「しょうがないやつだなあ」という親しみが入っています。
「アホ」は言葉だけを見れば悪口ですが、言い方や人間関係によっては、親しみを表す言葉にもなります。

② しんどい
「しんどい」は、「疲れた」「つらい」という意味です。
「今日はよう歩いたから、しんどいわ」なら、「今日はたくさん歩いたので疲れた」という意味です。
しかし、体の疲れだけではありません。
「この仕事、毎日続けるのはしんどいなあ」
と言えば、「大変だ」「精神的につらい」という意味にもなります。
関西では非常によく使われる言葉で、単なる「疲れた」よりも広く、体・気持ち・状況の大変さを表せる便利な言葉です。
③ ぼちぼち
「ぼちぼち」は、大阪弁らしい便利な言葉ですが、一つの標準語には置き換えられません。
たとえば、
「ほな、ぼちぼち行こか」
なら、「そろそろ行こうか」という意味です。
一方、
「商売どうでっか?」
「まあ、ぼちぼちでんな」
なら、「まあまあです」「そこそこです」という意味になります。
つまり「ぼちぼち」には、急がず少しずつ進む感じがあります。「最高です!」とも「全然だめです」とも言わず、ほどほどのところに置く。そんな関西らしい言葉とも言えそうです。

④ ぎょうさん
「ぎょうさん」は「たくさん」という意味です。
「ぎょうさん食べや」なら「たくさん食べなさい」、「人がぎょうさん来た」なら「人がたくさん来た」です。
意味は簡単ですが、「ぎょうさん」という音には、いかにも関西らしい響きがあります。ただし、現在の大阪では誰もが日常的に使うというより、世代や地域によって使用頻度には差があります。若い人なら普通に「めっちゃ多い」「たくさん」と言うこともあります。
テレビの時代劇や大阪を舞台にした作品などで耳にしたときに、意味が分かれば十分でしょう。
⑤ いらち
「いらち」は、せっかちで、待つことが苦手な人を表す関西の言葉です。
「あの人、いらちやから、もう先に行ってしもた」なら、「あの人はせっかちだから、もう先に行ってしまった」という意味です。
「せっかち」は性格そのものを説明する言葉ですが、「いらち」には、信号を待てない、行列を待てない、話が長いとイライラする、といった具体的な行動が見える感じがあります。
大阪人自身が、冗談っぽく
「大阪人はいらちやからな」
と言うこともあります。

⑥ なおす
この「なおす」は、標準語話者が最も誤解しやすい関西弁の一つです。
標準語で「なおす」と言えば、普通は「壊れたものを修理する」という意味です。
ところが大阪で、
「その本、なおしといて」
と言われたら、本を修理するのではありません。
「その本を元の場所に片づけておいて」
という意味です。
「この椅子、なおしといて」
大阪:椅子を片づけておいて
標準語:椅子を修理しておいて?
と意味がずれることがあります。
⑦ ほかす
「ほかす」は「捨てる」という意味です。
「これ、もういらんから、ほかしといて」なら、「これはもういらないから、捨てておいて」です。
標準語話者が「ほかす」と聞くと、「そのまま放っておく」のような意味を想像するかもしれません。しかし関西では、ゴミ箱に捨てることです。
「これ、ほかしてええ?」=「これ、捨ててもいい?」という形もよく使われます。

⑧ さら
「さら」と聞けば、多くの日本語学習者は食器の「皿」を思い浮かべるでしょう。しかし関西で、
「これ、さらやで」
と言えば、文脈によっては「これは新品だよ」という意味になります。「さらの靴」なら新品の靴、「さらの服」なら新品の服です。
「まっさら」という標準語があります。「まっさらなノート」の「さら」と考えると、覚えやすいでしょう。
⑨ べべ
「べべ」は、競争や順位の「いちばん最後」、つまり最下位です。
「運動会のかけっこ、べべやった」
なら、「かけっこで最下位だった」という意味です。
「べべた」「べった」などと言うこともあります。
少し子どもっぽい響きや昔ながらの響きもありますが、関西では今でも意味が通じる表現です。
「1番」と「べべ」。こうして対にして覚えると分かりやすいでしょう。
⑩ こそばい
「こそばい」は標準語の「くすぐったい」です。
脇の下などをくすぐられて、
「やめて、こそばい!」と言います。
また、体だけではありません。人から急にほめられたとき、少し照れくさいような気持ちを「こそばい」と表現することもあります。
「そんなにほめられたら、なんかこそばいわ」
なら、「そんなにほめられたら、なんだか照れくさい」という感じです。
短い会話で、まとめて使ってみよう
A「その靴、さら?」
B「せやで。昨日買うてん。」
A「なんぼしたん?」
B「安かったで。店にぎょうさん置いてあったわ。」
A「ええやん。箱はどうしたん?」
B「もういらんから、ほかした。」
A「早っ! ほんま、いらちやなあ。」
B「アホ言え。家に物置いとくの嫌いやねん。」
「意味を日本語に訳せる」だけでなく、会話の中で聞いた瞬間に場面が思い浮かぶようになれば、大阪弁がかなり身近になってきた証拠です。
まとめ
今回の10語には、「なおす=片づける」「ほかす=捨てる」「さら=新品」のように、標準語と意味が違うため、知らないと会話を誤解してしまう言葉もありました。
一方、「アホ」「ぼちぼち」「いらち」のように、辞書で意味を調べただけでは大阪人がどんな気持ちで使っているのか分かりにくい言葉もあります。

方言のおもしろさは、標準語に翻訳することだけではありません。その土地の生活や人間関係、話し方まで見えてくるところにあります。
ぼちぼち、大阪弁にも慣れてきましたか。
以上です。



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