日中対訳版7回目です。前回は → こちら
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そうなると、政府は、渡良瀬川と利根川の合流点に近い谷中村を、大きな遊水地にするという計画を発表した。鉱毒の広がるのは渡良瀬川の洪水によってのことだから、大きな遊水地を造って洪水を防げば、鉱毒も広がらないだろうというのだ。そして、政府は、谷中村の村民に金を与えて無理に立ち退かせ、計画どおり遊水地の工事を始めたのである。
正造は、荒れ果てた谷中村の跡に立って、「政府は間違っている。やるべきことは、谷中村を犠牲にして鉱害の範囲を小さくすることではない。足尾銅山の採鉱を停止させ、鉱害が絶対に起こらぬ設備を造らせることだ。」と白い髭を振わせて怒り続けた。
それからの正造は、鉱毒を完全に防止できる設備が完成するまで足尾銅山の採鉱を停止させ、滅びた谷中村を元どおりにしようとする運動に、残っている力のすべてを注いだ。
国会議員をやめてしまった正造には、もはや国会で訴える術はない。やむを得ず、正造は、老いて疲れた体を引きずっては、著名な政治家や、知り合いだった議員を一人一人訪ね、鉱毒問題を国会で採り上げてくれるように頼んで回った。昨日は西へ、今日は東へと走り回る正造には、たまたま自分の家の前を通っても、立ち寄っている暇さえなかった。
だが、正造がけんめいになればなるほど、政治家たちは彼を避けようとした。彼らは、自分の利益にならない面倒な問題には、関係を持ちたくなかったのである。
そうなると、政府は、
そうなると、政府は、渡良瀬川と利根川の合流点に近い谷中村を、大きな遊水池にするという計画を発表した。鉱毒の広がるのは渡良瀬川の洪水によってのことだから、大きな遊水地を造って洪水を防げば、鉱毒も広がらないだろうというのだ。
这样一来,政府就发表了把渡良濑川和利根川交汇处附近的谷中村建设成洪水暴发时的临时储水池的计划。政府说矿毒的扩散是由渡良濑川的洪水引起的,因此如果建造一个大的储水池来防御洪水的话,矿毒也就不会扩散了。
・遊水池:洪水時に川の水を一時的にためるのに利用される、川に隣接した場所。
そして、政府は、谷中村の村民に金を与えて無理に立ち退かせ、計画どおり遊水地の工事を始めたのである。
于是政府就拨款给谷中村的村民,强制要求他们搬迁,按计划开始了建水池的工程。
・立ち退く(たちのく):①その場所を離れて、よそへ移る。「野次馬を立ち退かせる」、②住んでいる家などを明け渡して、よそへ移る。
正造は、荒れ果てた谷中村の跡に立って、「政府は間違っている。やるべきことは、谷中村を犠牲にして鉱害の範囲を小さくすることではない。足尾銅山の採鉱を停止させ、鉱害が絶対に起こらぬ設備を造らせることだ。」と白い髭を振わせて怒り続けた。
正造站在荒凉的谷中村的遗址上,抖动着白白的胡须怒斥道:“政府的决策是错误的。应该做的不是以牺牲谷中村来缩小矿害的范围,而是应该立即停止足尾铜山的采矿,让他们制造出绝对不会再次引发矿害的设备。“
・ふるわせる(震わせる/振るわせる):小刻みに揺れ動くようにする。「怒りに全身を振るわせる」「肩を振るわせて泣く」
それからの正造は、鉱毒を完全に防止できる設備が…
それからの正造は、鉱毒を完全に防止できる設備が完成するまで足尾銅山の採鉱を停止させ、滅びた谷中村を元どおりにしようとする運動に、残っている力のすべてを注いだ。
之后正造倾注了全部的余力,去从事停止足尾铜山采矿,直至制造出能完全防止矿毒危害的设备,以及恢复已经毁灭的谷中村原貌的运动。
・滅びる(亡びる):勢力などが衰え、これまで存在していたものが絶えてなくなる。滅亡する。絶滅する。
国会議員をやめてしまった正造には、もはや国会で訴える術はない。やむを得ず、正造は、老いて疲れた体を引きずっては、著名な政治家や、知り合いだった議員を一人一人訪ね、鉱毒問題を国会で採り上げてくれるように頼んで回った。
对于已经辞去国会议员的正造来讲,已经没有办法在国会上申诉。不得已,正造拖着年老衰弱的身体,去一一拜访那些著名的政治家和熟悉的议员,不断地请求他们在国会上提出矿毒问题。
・術(すべ):手段。方法。てだて。
・引きずる(引き摺る):地面・床などの表面をするようにして引いていく。→無理に動かす。→長引かせる、いつまでも忘れないでいる。
每天东奔西走的正造,即使偶尔路过家门口,也没有时间进去。但是,正造越拼命努力,政治家们越是想避开他。他们对于自己没有利益的麻烦问题,不想扯上关系。
・立ち寄る:目的地に行く途中で、ついでに訪れる。「帰りがけに友人の家に立ち寄る」
それでもなお、正造は諦めなかった。そして、運動に熱中するあまり、前よりもいっそう身なりを構うゆとりがなくなって、あるときなど、初めて立ち寄った宿屋で、「じいさん、うちでは泊められないよ。」と、断られたことさえあったという。
こうして、二十年間も足尾銅山の鉱毒と戦い、疲れ果てた正造は、一九一三年(大正二年)の八月二日、立ち寄った栃木県吾妻村の農家で急に倒れた。そして、心配して集まってきた人々に、正造は、「わしの命を気づかう代わりに、みんなが心を一つにして、鉱毒をなくす運動を盛り上げてくれ。この荒れ果てた渡良瀬川の流域に、一本でも多く木を植えてくれ。」と遺言すると、およそ一か月後の九月四日、永遠に瞼を閉じたのである。
このとき、正造は七十一歳。その名前の通り正直で、一身の利益や名誉を顧みることなく、正義のため、人道のため、何者をも恐れず戦いぬいてついに倒れた、壮烈な生涯であった。
死後に残された正造の持ち物といっては、菅笠と小さな頭陀袋だけで、そのほかに何一つない。翌晩、身寄りの者が集まってその頭陀袋を開けてみると、入っていた物は、聖書一冊と日記が三冊、それに鼻紙が少しだけであった。
それでもなお、正造は諦めなかった。
それでもなお、正造は諦めなかった。そして、運動に熱中するあまり、前よりもいっそう身なりを構うゆとりがなくなって、あるときなど、初めて立ち寄った宿屋で、「じいさん、うちでは泊められないよ。」と、断られたことさえあったという。
虽然如此,正早造还是没有放弃。而且,由于过于热衷于这个运动,他反而比以前更加不注意自己的着装。有时,在第一次去的旅馆,甚至会遭到拒绝:“老爷子,你不能住在我们这里。”
・あまり:(感情・動作を示す語をうけて)それが原因となって結果が引き起こされる。「喜びのあまり泣き出した」「勢いのあまり転げ落ちた」「成功を急ぐあまり失敗した」
・身なり:衣服を身につけた姿。またその服装。
こうして、二十年間も足尾銅山の鉱毒と戦い、疲れ果てた正造は、一九一三年(大正二年)の八月二日、立ち寄った栃木県吾妻村の農家で急に倒れた。
就这样,跟足尾铜山矿害足足战斗了20年,精疲力竭的正造于1913年(大正二年)8月2日,路过枥木县吾妻村的农家时突然倒下了。
そして、心配して集まってきた人々に、正造は、「わしの命を気づかう代わりに、みんなが心を一つにして、鉱毒をなくす運動を盛り上げてくれ。この荒れ果てた渡良瀬川の流域に、一本でも多く木を植えてくれ。」と遺言すると、およそ一か月後の九月四日、永遠に瞼を閉じたのである。
之后,正造对为担心他而赶过来的人们说:“比起操心我的生命,大家更要齐心协力,把消除矿毒运动推向高潮。在荒凉的渡良濑川流域,哪怕是多一棵也好要多种树。”正造留下了这样的遗言,大概一个月后的9月4日,永远地闭上了眼睛。
・気づかう(気遣う):心配して気をつかう。案じる。
・盛り上げる:物事の勢いや気勢を高める。「雰囲気を盛り上げる」
・遺言:自分の死後のために言い残しておくこと。「遺言状」
このとき、正造は七十一歳。
这时,正造71岁,他的一生就如同他的名字那样正直,是完全不顾自身的利益和名誉,为了正义,为了人道,毫不畏惧战斗到最后直到倒下的壮烈的一生。
・壮烈:激しく勇ましいこと。「壮烈な死を遂げる」
说到正造死后留下的物品,除了一个斗笠和一个小的褡裢之外别无他物。第二天晚上,亲戚聚到一起,打开那个褡裢,里面仅有一本圣书、三本日记和一些纸巾而已。
(摘自『国語六(下)希望』光村图书。汉字表记有改动)
・頭陀袋(ずだぶくろ):雑多のものを入れて運ぶのに使う大きな袋。もと修行僧が首にかけて使ったものを指す。
・身寄り:身を寄せるところ。親類。縁者。
・鼻紙:ちり紙。ティッシュペーパー。



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