日中対訳版6回目です。前回は → こちら
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鉱毒地を救おうという運動は野火のように広がった。人々は鉱毒地の農民に同情を寄せ、村々を視察したり、お金や衣類などを寄付したりした。
けれども、鉱毒のおそろしさは実際に被害を受けた者でなくては、本当には分からない。農民たちはその後も東京へ押し出したが、犠牲者を出しただけで終わり、年月とともに世間は鉱毒問題を少しずつ忘れていった。そして、ついには、「足尾銅山の鉱毒問題かね。あれは、田中正造が選挙の票稼ぎを狙って、一人騒いでいるだけさ。」と言うようにまでなってしまったのである。
正造の心は重かった。一身や党派の利害をはなれて、ひたすら正義のために働いているというのに、世間では選挙運動としか思ってくれないのだ。しかも、鉱毒地の農民たちの生活は年ごとに苦しくなり、芋粥も啜れない家や、困り果てた末、家族が散り散りになる家さえも出てきているのである。
「この先、わしはいったい何をしたらよいのだろうか―。」苦しみのため、額に深いしわが刻まれ、ひげの真っ白に変わった正造には、腕を組んで考え込む日々が続いた。そして、一九〇一年(明治三十四年)の秋になって、正造は何事か決心をしたらしく、衆議院に辞表を出して議員をやめたのである。
正造が何のためにそんなことをしたのかは、その年の十二月十日、第十六議会の開院式の当日明らかになった。
鉱毒地を救おうという運動は野火のように広がった。
解救矿毒灾区人民的运动像野火般蔓延开来。大家对矿毒灾区的农民寄予同情,考察了各个村庄,还捐赠了钱款和衣物等。
・野火(のび):春先に野原などの枯れ草を焼く火。
・寄せる:集める、傾ける→好意を寄せる、心を寄せる、祖国に思いを寄せる
然而如果不是亲身经历的受害者是不会知道矿毒的危害的。农民们在那以后也到过东京,但最后还是仅以牺牲很多人而告终。随着时间的流逝,世人也就渐渐淡忘了矿毒问题。
最后,甚至有人说,“足尾铜山的矿毒问题嘛,这只不过是田中正造为了争取选票,一个人在瞎闹而已。
正造の心は重かった。
田中正造的心情很沉重,虽然,他远离自己和党派的利害得失,为了正义一心一意地奋斗,但是却只是被世人认为在搞选举运动。
而且,矿毒灾区的农民们生活越来越苦,连甘薯粥也吃不起的家庭和穷困到了极点导致妻离子散的家庭也出现了。
・ちりぢり(散り散り):一つにまとまっていたものが離れ離れになるさま。「一家が離散する」
この先、わしはいったい何をしたらよいのだろうか―。
“今后,我到底该做什么才好呢?”因为辛苦,田中的额头上爬满了深深的皱纹,胡须也都变白了,他天天抱着胳膊深思着。

到了1901年(明治34年)的秋天,正造好像决定了什么重要的事情,向众议院递交辞呈辞去了议员职务。
正造が何のためにそんなことをしたのかは、その年の十二月十日、第十六議会の開院式の当日明らかになった。
正造究竟是为了什么才这样做的,这个疑问在当年12月10日的第16次议会的开院仪式上得到了答案。
3
その日の午前十一時二十分、開院式に臨んだ明治天皇の馬車が、車輪の音もかろやかに、貴族院議長官舎前の道を左へ曲がったときである。道の両側に居並ぶ人々の間から、黒い木綿の羽織袴に、足袋跣足の老人が、髪を振り乱し、一通の大きな封筒を片手に捧げ持って、「―陛下にお願いがございます。お願いがございます。」と叫びながら走り出た。
馬車のわきを守っていた騎兵が、槍を煌めかして老人を遮ろうとしたが、弾みで馬がどうと倒れる。と、ほとんど同時に、その老人―田中正造の足がもつれて前に転び、そこへ警官が二人走り寄って正造を押さえ付けてしまったのである。
正造は天皇への直訴を決行したのだった。彼の捧げ持っていた封書は、天皇に宛てた直訴状で、足尾銅山の鉱毒で荒れ果てた村々の有様と農民たちの苦しみが、こまごまと記されていた。
正造は不敬罪で捕らえられて、監獄につながれるのはもちろんのこと、裁判次第では、死刑にされるかもしれないと覚悟していた。彼は自分が身を捨てることによって、政府や社会が鉱毒問題に真剣に取り組むようになれば良いと考えて、直訴を決行したのである。
それなのに、正造は警察にたった一晩とめられただけで、翌日は宿屋へ帰された。彼の身を気づかって集まっていた人々に、正造が苦笑いとともにもらしたのは、「役人のやつら、この正造を狂人にしてしまいおった。」という一言であった。
その言葉どおり、政府は、正造を不敬罪で裁判にかける代わりに、狂人としてあつかったのである。狂人が発作を起こして、たまたま天皇の馬車の前へ走り出ただけのことで、まじめに採り上げるようなことではない―政府は、人々にそう思わせようとしたのだった。
正造の狙いは、ものの見事に外されてしまったわけだ。けれども、新聞や雑誌がこの事件を書き立てたので、正造の真意は広く伝わり、政府が足尾銅山の鉱害を見過ごしているのはけしからんとする世論が、次第に強くなってきたのである。
その日の午前十一時二十分、開院式に臨んだ明治天皇…
その日の午前十一時二十分、開院式に臨んだ明治天皇の馬車が、車輪の音もかろやかに、貴族院議長官舎前の道を左へ曲がったときである。
那天上午11点20分,前去参加国会开院式的明治天皇的马车伴随着轻快的车轮声,在贵族院议长官邸前向左转弯时,
・臨む(のぞむ):①ある場所に向かい対する。面する。「海に臨んで建つ家」②公的な催しや集まりに出席・参加する。
・〔比較〕望む(のぞむ):遠くから眺める。「展望台から富士山を望む」
・軽やか:いかにも軽そうなさま。「軽やかに舞う」「軽やかな笑い声」
道の両側に居並ぶ人々の間から、黒い木綿の羽織袴に、足袋跣足の老人が、髪を振り乱し、一通の大きな封筒を片手に捧げ持って、「―陛下にお願いがございます。お願いがございます。」と叫びながら走り出た。
道路两旁的人群中,一个身着短外套和和服裙子,脚上只穿了双布袜子的老人,披散着凌乱的头发,一只手高举着一封书信,一边大声喊着:“陛下,我有事要请求,我有事要请求!”一边从人群里跑了出来。
・居座る:すわったまま動かない。「借金取りが玄関口に居座る」「低気圧が南方海上に居座る」
守卫在马车旁边的骑兵,舞动着铮铮发亮的梭镖要阻止老人,马因为惯性霎时间倒在了地上,而与此同时,那个老人–田中正造也脚下打了一个趔趄向前摔倒,这个时候两位警察跑过来按住了正造。
・煌めく:星が煌めく、陽光に川面がきらめく→才能が煌めく
・弾み:物がはずむこと→思いがけない勢い、偶然の成り行き
・もつれる:絡まり合ってほどけなくなる→舌がもつれる、足がもつれる→交渉がもつれる
正造は天皇への直訴を決行したのだった。
因为正造坚决要向天皇直接申诉,他手捧的那封书信,正是给天皇的直接诉状,里面详详细细地记录了因足尾铜山的矿毒而荒废掉的村子的惨状和农民的疾苦。
・こまごま(細々):細かい点まで気をかけるさま。「細々とした注意」「細々と世話を焼く」
正造は不敬罪で捕らえられて、監獄につながれるのはもちろんのこと、裁判次第では、死刑にされるかもしれないと覚悟していた。彼は自分が身を捨てることによって、政府や社会が鉱毒問題に真剣に取り組むようになれば良いと考えて、直訴を決行したのである。
正造早已做好了心理准备,他明白自己肯定会因为不敬罪而被关在监狱里,或根据审判情况甚至有可能被判死刑,他正是想通过牺牲自己以换取政府和社会对矿毒问题的重视,所以下决心直接向天皇申诉的。
・不敬:皇室や社寺に対して礼儀に欠けること。
・覚悟:予想される良くないことに対し、それを受け入れようと心を決めること。観念する。「覚悟を決める」「苦労は覚悟の上だ」
それなのに、正造は警察にたった一晩とめられただけで、
それなのに、正造は警察にたった一晩とめられただけで、翌日は宿屋へ帰された。彼の身を気づかって集まっていた人々に、正造が苦笑いとともにもらしたのは、「役人のやつら、この正造を狂人にしてしまいおった。」という一言であった。
但是,警察只扣留了他一个晚上,第二天就放他回旅馆了。正造对因担心他而聚集在一起的人们边苦笑边说了一句:“那些官员家伙们把我这个正造当疯子来处理了。
その言葉どおり、政府は、正造を不敬罪で裁判にかける代わりに、狂人としてあつかったのである。狂人が発作を起こして、たまたま天皇の馬車の前へ走り出ただけのことで、まじめに採り上げるようなことではない―政府は、人々にそう思わせようとしたのだった。
”正如正造所言,政府并没有以不敬罪起诉他而是把他当作疯子来对待了。那仅仅是疯子病情发作,跑到天皇马车前闹事而已,没必要跟他较真。政府正是想给人们灌输这样的思想
・発作(ほっさ):病気の症状が急激に起こること。
・たまたま:偶然に、思いがけなく
正造的期望确确实实地落了空。但是因为报纸、杂志等大量报道这件事,正造真正的意图得到了广泛的传播,政府对足尾铜山的矿害置之不理太不像话之类的舆论逐渐高涨。
・見過ごす:①気づかないでしまう。見落とす。②気づきながらそのままにする。看過する。


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