東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたわむる(石川啄木)

東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる
東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる

(上の写真は北海道函館市の大森浜、この歌が詠まれた場所と言われています。)

「東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる」(石川啄木)は中学生のころから大好きな短歌でした。〔現代語訳:東の海の中に小さな島がある。その島の磯の白い砂浜にたたずみ、私は泣きながら蟹とたわむれている〕

 日本語教師としてこの歌を鑑賞し直すとすると、新たな魅力が発見できます。

東海の小島の磯…

石川啄木像大森浜

石川啄木像

 明治の代表的歌人石川啄木(1886-1912年)の歌集「一握の砂」の最初に載せられた有名な短歌です。「東海」といえば、三重、愛知、静岡あたりの海かと思ってしまいますが、それは勘違い。実際は特定の場所を指しているのではなく、西洋と東洋の「東」に当たる「東の方の海」ぐらいのイメージではないでしょうか。

 「小島」についても、大きな「東海」の中の小島なら日本列島そのものを小島と言ってもよいし、一つの島にこだわるなら、この歌を詠んだ時石川啄木が住んでいた北海道、あるいはかつて島であったという函館を指すという説もあるようです。

 磯についてはその函館の大森浜であるという説が有力で、大森浜には啄木小公園があり、石川啄木像があります。

 石川啄木が実際に思った、東海、小島、磯がどこであるかということはあまり大きな問題ではないような気もします。文学作品というものはそのもの自体で鑑賞しうるものではないかと、私は思います。

ズームインの速度感

 まず誰もが気がつくこの歌の特徴は、前半の「東海の小島の磯の白砂に」で「東海」→「小島」→「磯」→「白砂」へと地球レベルの大きな範囲から一気にズームインする視覚的効果です。

「~の~の~の」によるスピードアップ

 そして「東海、小島、磯、白砂」が全て「の」によって連結されていることがズームインが加速され、ちょっとついていけなくなるようなスピード感が表現されています。

東海の小島の磯の白砂に…

東海の小島の磯の白砂に…

「に」を結節点として「われ(私)」視点への移動

 「…小島の磯の白砂に」で「の」の連続の後で「に」が小ブレーキとなり世界が変わります。「われ」が登場し、「泣きぬれて蟹とたわむる」という作者石川啄木目線の物語が始まり、そして完結するのです。

われ泣きぬれて蟹とたわむる

われ泣きぬれて蟹とたわむる

 宇宙、地球規模の外界(自然)描写に始まり、蟹を通して内心の苦悩を描くところまでがこの短い歌の中に表現されているということになります。

音象徴(おんしょうちょう)からの考察

 音象徴、特に「母音あいうえお aiueo」の使い方という観点からこの句を見てみましょう。

TOKAINO KOJIMANOISONO SHIRASUNANI WARENAKINURETE KANITITAWAMURU

とおかいのー、こじまのいそのお、しらすなにい~、われなきぬれて、かにとたわむる~

とおかいのー、こじまのいそのお、しらすなにい~、われなきぬれて、かにとたわむる~

 「東海の小島の磯の」まで「O」音が集中して6回、「白砂に」の中心部を軸として後半は「O」音は1回だけになり、その代わり「U」音が4回と母音の使い方に極端な傾向がありますね。

 特に朗読してみればわかりますが「とかいの、こじまのいその」の両端の「」が際立ち、「しらすなにいー」の「」音が際立ち一種の転換点になり、後半、それも最後の「たわむ」という「」の連続に至ります。

あいうえお(aiueo)の音象徴

 「あいうえお」の音は、口の中でそれらの音が作られる場所によって、おおまかに以下のような印象を持ちます。

 音の出所印象あいうえお位置小
低い所から安定感、開放感
前面から相手に向かう目立つ音
後ろから受動的、内面的
前面から相手に向かう目立つ音
後ろから大きいものを受ける

「あいうえお」の音象徴について詳しくは以下記事を参照ください。

この「東海の小島の磯の…」の歌では、前半の「お」音の連続で大きな外部世界が描かれ、後半の「う」の音で啄木の内面の苦悩が音声的にもうまく表現されているということになります。

外部世界から内部世界への心の視点移行

 以上のようなことから、「東海の小島の磯の…」の歌で前半多用される「O」音は啄木の外部にある「大きな自然」をうまく表現しており、中心の「い」音は気付け薬のように緊張感を呼び覚まします。

 そしてラストの「U」音連続による内面の苦悩の表現へと収束していくのです。

「外部の自然描写」から「内面の心理描写へ」

「外部の自然描写」から「内面の心理描写へ」

 母音中心言語である日本語ならではの作品の一つだといえるのではないでしょうか。

 

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