バイト敬語「よろしかったでしょうか?」について

よろしかったでしょうか

バイト敬語

 「バイト敬語」というのはここ10年ぐらいでしょうか?コンビニを中心とした接客業のアルバイトをする若者の間で使われ始めた敬語。

 バイト敬語正用法
~のほうこちらのほういかがでしょうか?こちら、いかがでしょうか?
~でよろしかったでしょうかご注文は以上でよろしかったでしょうか?ご注文は以上でよろしいでしょうか
~になりますこちらカレーライスになります。こちらカレーライスでございます。
~からお預かりします100円からお預かりします。1000円、お預かりします。

コンビニ店員 この言い回しは一時、コンビニの店員さんが多用されていたものですが、正用法ではないということで違和感を感じる人も多く、最近ではあまり使う人がいなくなったように感じます。

 誤用と言えば誤用なんですが、実はそれぞれ言語の自然な変化(ゆらぎ)の中で淘汰され生まれてきたものだと、私は思っています。ただ不愉快に思う人がいるうちはなかなか正しい日本語にはなりそうもありません。

 この中でたびたび問題視される2番目の「~でよろしかったでしょうか」について考えてみましょう。

~よろしかったでしょうか

 「~よろしいでしょうか」が正しい言い方です。現在のことを確認するのになぜ「かった」と「過去形」を使うのかというのがこの言い方を批判する側の立場です。

 「よろしい」という形容詞の過去形は確かに「よろしかった」です。ではこの「過去形」は「過去を表す」と言っていいのでしょうか?

日本人は「た」は「過去を表す助動詞」である。
 と習います。過去形は過去形じゃん、というのが常識人ですね。

過去を表す助動詞「た」について

  次の例文を見てください。バスが来た!

  • ① そういえば、明日は彼女の誕生日だった。
  • ② あ、バスが来た。

  ①は未来のことを表しています、②は現在のことを表しています。どうやら、過去を表す助動詞の「た」は「過去」以外のことも表すようですね。

「た」の用法

 では、「た」の表す意味について調べてみましょう。

新明解国語辞典の「た」の語釈

 まず新明解国語辞典第八版の語釈を見ると以下のようになってます。

た〔助動詞・特殊型〕:その事柄(ことがら)がすでに実現し、結果が現れているものを認められる(見なす)という主体の判断を表す。(新明解国語辞典第八版)
 ちょっとピンとこないという人が多いと思います。
 実はこういう時に頼りになるのがサンコク、こと三省堂国語辞典なのです。
 (実は、ここでは言及しませんが、新明解のこの語釈はある意味名人芸のような名語釈ではあるのです。つまり、日本語話者の頭の中には「た」という助動詞にいくつもたくさんの意味があるわけではなく。「た」の示す大きな「一つの概念」というものがあるだけなのです。その概念をなんとか言語化しようとしているのが新明解ということです。)

三省堂国語辞典の「た」の語釈

 サンコクの語釈を以下にまとめます。(一部言葉をわかりやすく変えています。)
①過去の事実帰りに花を買っ
②完了もう全部見
③状態曲がっ
④変化した結果火が消え
⑤前提今後会っ時に聞いてみよう。
⑥仮定もし空を飛べならいいのに。
⑦確認明日は土曜日だっね。
⑦過去の認識(発見)あ、ここにあっ
⑨強い決心よし、買っ
⑩命令どいどい!もう寝

  サンコクでは10の意味分類になっていますが、定説があるわけではありません。(過去の助動詞「た」については研究中で諸説あります。)

 しかし、過去は、過去を表す助動詞「た」の一つの機能に過ぎないということはわかっていただけたと思います。

再び「~よろしかったでしょうか」について

コンビニお姉さん二人 結論からいうと「~よろしかった」の「た」は上の「⑦過去の認識」に相当する言い方ではないかと言われています。

 上の例「あ、ここにあった!」というのは過去から存在したものを、今自分が認識しましたよという意味ですね。

 つまり「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」というのは、

お客様のご注文を承りました。それは(数十秒ぐらいかもしれませんが)過去のことです。その大切なご注文を、私はしっかりと記憶に残しております。その認識について再確認させていただいていいでしょうか。
 という感情がこの言葉を生み出したと考えられるのです。
 バイト敬語、若者言葉あなどるべからず!です。
 以上です。
 
 

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