「流れに棹さす」
「流れに棹さす」という言葉があります。
みなさんは、A、B、どちらの意味だと思いますか。
A 流れに逆らって、勢いを止める
B 流れに乗って、勢いを増す
「棹(さお)をさす」と聞くと、長い棒を水の中に突き立てて、 流れに抵抗するような感じがするかもしれません。しかし、本来の意味は「B 流れに乗って、勢いを増す」です。

文化庁の調査では、68.9%が逆の意味を選んだ
文化庁の令和7年度「国語に関する世論調査」では、
「その発言は流れに棹さすものだ」という例を示して、その意味を尋ねています。結果は以下です。
| 意味 | 割合 |
|---|---|
| 傾向に逆らって、勢いを失わせる | 68.9% |
| 傾向に乗って、勢いを増す | 22.7% |
| 両方 | 5.1% |
つまり、本来とは逆の意味を選んだ人が7割近くもいました。本来の意味を選んだ人は、わずか2割強です。

そもそも「棹さす」とは?
「棹」とは、舟を進めるために使う長い棒です。船頭は棹を水底に突き、その力を利用して舟を前へ進めます。つまり、
棹をさす
↓
舟を進める
↓
流れに乗って進む というイメージです。
そこから「流れに棹さす」は、 その時の流れや傾向に乗って、物事をさらに進める という意味になりました。

夏目漱石『草枕』にも「棹さす」が出てくる
この「棹さす」の意味を覚えるのに、とてもよい例があります。夏目漱石の『草枕』冒頭にあります。
智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。
ここにある「情に棹させば流される」も、 「棹さす」という言葉の本来のイメージを使っています。「情」を川の流れだと考えてみましょう。
情に棹さす
↓
情の流れに流される
↓
自分の感情を見失う という意味です。
もし「棹さす」を「流れに逆らう」という意味で理解すると、 「情に棹させば流される」という文章の正しい理解ができなくなってしまいます。

なぜ「流れに逆らう」と思ってしまうのか
では、なぜこれほど多くの人が逆の意味に理解しているのでしょうか。一つには、「棹を水の中に突き立てる」という動作が関係していると考えられます。長い棒を水の中に突っ込むと、
- 流れを止める
- 流れに抵抗する
- 進行を妨げる というイメージを持ちやすいからです。
さらに、日本語には「水を差す」という言葉もあります。「話に水を差す」「せっかくの雰囲気に水を差す」のように、 こちらは邪魔をするという意味です。「流れに棹さす」と「水を差す」のイメージが混ざってしまうことも、 誤解の原因の一つなのかもしれません。

実は20年以上前から「逆の意味」が多数派
この問題、「最近の若者が間違えるようになった」と思うかもしれません。ところが、実際はそうではないようです。以下をご覧ください。
| 調査年度 | 「流れに逆らう」 | 「流れに乗る」 |
|---|---|---|
| 2002年度 | 63.6% | 12.4% |
| 2006年度 | 62.2% | 17.5% |
| 2012年度 | 59.4% | 23.4% |
| 2025年度 | 68.9% | 22.7% |
2002年度の調査でも、すでに63.6%の人が 「流れに逆らう」という意味だと答えています。つまり、これは最近生まれた誤解ではありません。20年以上にわたって、本来とは逆の意味の方が多数派なのです。
今回の調査では、すべての年齢層で 「流れに逆らう」という回答が本来の意味を30ポイント以上上回っています。
まとめ
「流れに棹さす」の本来の意味は、
流れに乗って、勢いを増す
ただ最近の文化庁の調査では、
・流れに逆らう……68.9%
・流れに乗る……22.7% と、本来とは逆の意味を選ぶ人が圧倒的に多くなっています。
・夏目漱石『草枕』「情に棹させば流される」これは、棹をさすから流される。つまり、「棹さす」は流れに乗る。こう覚えておきましょう。
参考:文化庁「令和7年度 国語に関する世論調査」
夏目漱石『草枕』




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