「~としたことが」と「~ともあろうものが」
今回は、N1文法の「~としたことが」と「~ともあろうものが」の違いを整理します。どちらも「その人にふさわしくないことが起こった・行われた」という点では似ていますが、何を問題にしているのかが少し違います。
まずざっくり違いを確認
先に一言でまとめると、次のようになります。
「~ともあろうものが」= その立場・能力のある人が、ふさわしくない行為をしたことを強く非難する表現
| 文法 | 中心的な意味 | 話し手の気持ち | よく使う相手 |
|---|---|---|---|
| ~としたことが | その人らしくない失敗 | 驚き・失望・自責 | 自分・身近な人・普段しっかりした人 |
| ~ともあろうものが | その立場に反する不適切な行為 | 強い非難・批判 | 立場や責任のある人 |
つまり、「~としたことが」は“その人らしさ”に注目し、「~ともあろうものが」は“その人の立場・資格”に注目する、と覚えるとわかりやすいです。

1.「~としたことが」の意味と使い方
「~としたことが」は、その人なら普通はしないような失敗や行動を見て、驚いたり、あきれたり、残念に思ったりするときに使います。
接続
名詞 + としたことが
- 私としたことが、財布を家に忘れてきてしまった。
- あの慎重な部長としたことが、確認もせずにサインするなんて。
- いつも冷静な彼としたことが、今日はずいぶん感情的だ。
使い方のポイント
- 普段はちゃんとしている人に対して使うことが多い。
- 話し手の驚き・失望がこもる。
- 自分にも使えるのが大きな特徴。
特に「私としたことが…」はよく使われます。これは、「私らしくもなく、うっかりこんなことをしてしまった」という自責の言い方です。
| 例文 | ニュアンス |
|---|---|
| 私としたことが、締切を完全に勘違いしていた。 | 自分への反省・自責 |
| 優秀な彼女としたことが、こんな初歩的なミスをするなんて。 | 意外さ・驚き |
| ベテラン教師としたことが、学生の名前を何度も間違えるとは。 | 失望・あきれ |
2.「~ともあろうものが」の意味と使い方
「~ともあろうものが」は、それなりの地位・能力・責任のある人が、その立場にふさわしくない行為をしたときに使います。
接続
名詞 + ともあろうものが
- 教師ともあろうものが、生徒の前でそんな言葉遣いをしてはいけない。
- 医者ともあろうものが、患者の気持ちを軽く見るとは。
- 国の代表ともあろうものが、そのような無責任な発言をするとは情けない。
使い方のポイント
- 単なるミスより、立場に反する不適切な行為に使うことが多い。
- 批判・非難の気持ちがかなり強い。
- 多くは他人に対して使う。自分に使うことはふつう少ない。
たとえば、教師・医者・警察官・親・指導者など、社会的な役割や責任がはっきりした人に対して使うと自然です。
| 例文 | ニュアンス |
|---|---|
| 教師ともあろうものが、生徒を見下すようなことを言うべきではない。 | 教師として失格だ、という強い批判 |
| 親ともあろうものが、子どもの前で責任逃れをするなんて。 | 親の立場に反するという非難 |
| プロともあろうものが、基本を無視した仕事をするとは。 | 高い能力・責任に見合わない行為への批判 |
3.「~としたことが」と「~ともあろうものが」の違い
ここがいちばん大切です。両者の違いを、視点ごとに整理してみましょう。
| 比較ポイント | ~としたことが | ~ともあろうものが |
|---|---|---|
| 注目点 | その人らしさ | その人の立場・資格・責任 |
| 内容 | うっかりミス・らしくない行動 | 立場に反する不適切な行為 |
| 気持ち | 驚き・失望・反省 | 強い非難・批判 |
| 自分に使えるか | 使いやすい | ふつうはあまり使わない |
| 文体 | やや硬い | かなり硬く、強い言い方 |
「~としたことが」= “あなたらしくないね”
「~ともあろうものが」= “その立場の人なのに、それはだめだ”
4.例文で比べてみよう
例① しっかりした人がミスをした
- 慎重な彼としたことが、書類を電車に置き忘れるなんて。
→ 「彼らしくない失敗」に注目しています。こういう場合は「~としたことが」が自然です。
例② 立場のある人が不適切なことをした
- 教師ともあろうものが、そんな差別的な発言をするとは。
→ ここでは「教師という立場」に注目しています。したがって「~ともあろうものが」が自然です。
例③ 自分の失敗を言う
- 私としたことが、大事な会議の日を勘違いしていた。
→ 自分への反省なので、自然です。「私ともあろうものが…」と言えないわけではありませんが、かなり大げさで、ふつうはあまり使いません。
5.間違えやすいポイント
① 「~ともあろうものが」は軽いミスには使いにくい
たとえば、
- △ 田中さんともあろうものが、電車を乗り間違えた。
これは文法的に完全に不自然とは言い切れませんが、少し大げさに感じます。単なるうっかりミスなら、
- ○ 田中さんとしたことが、電車を乗り間違えた。
のほうが自然です。
② 「~としたことが」は非難だけでなく自責にも使える
この点が、「~ともあろうものが」との大きな違いです。
「~ともあろうものが」は、主に他人への強い批判に使う。
③ どちらも会話ではやや硬い
どちらも日常会話でゼロではありませんが、特に「~ともあろうものが」はかなり硬めです。ふだんの会話では、次のような言い方で言い換えることも多いです。
- あなたらしくないね。
- 先生なのに、そんなことを言うなんて。
- プロなのに、それはまずいよ。
6.言い換え表現も少し確認
| 表現 | 意味・特徴 |
|---|---|
| らしくない | その人らしくないという意味。会話的で使いやすい。 |
| ~なのに | 立場・状況とのギャップを広く表せる。硬さは弱い。 |
| ~くせに | 不満・非難が強いが、やや感情的でくだけた感じがある。 |
まとめ
最後に、今日のポイントを短くまとめます。
- 「~としたことが」は、その人らしくない失敗や行動に驚く表現。
- 「~ともあろうものが」は、その立場にある人がしてはいけないことをしたときの強い非難。
- 「~としたことが」は自分にも使える。
- 「~ともあろうものが」は、主に他人への批判に使う。
「~としたことが」= らしくない失敗
「~ともあろうものが」= 立場に反する行為
この2つは似ていますが、「らしさ」を見るのか、「立場・責任」を見るのかで使い分けると、かなりすっきり整理できます。

以上です。




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