「あえて」と「しいて」(再考)

 「あえて」と「しいて」。いろいろな状況を押し切って、強引に何かをするという意味では共通しますが意味・使い方はことなります。

まず結論

「あえて」と「しいて」は、どちらも「普通ならしないこと」「本来はしなくてもいいこと」を「する」という表現です。
ただし、話し手の気持ちや行動の向きが違います。

表現必要性気持ち・ニュアンス
あえて本来は必要ないでも目的があって、自分から積極的にするあえて厳しいことを言う
しいて本来は必要ないでも必要に迫られて、無理にする・言うしいて言えば欠点は少ない

簡単に言うと、

「あえて」は、しなくてもいいことを意図的にする表現。
「しいて」は、無理にする・無理に言う表現。

この違いをおさえると、かなり使い分けやすくなります。個別に見ていきましょう。

「あえて」は、必要ないことを意図的にする

「あえて」は、普通ならしないこと、しなくてもいいことを、何かの目的があって意識的にする場合に使います。

たとえば、

あえて厳しいことを言う。

これは、「厳しいことを言う必要はないかもしれない。でも、相手のためになると思って言う」という意味です。つまり、「あえて」には、話し手の強い意志があります。

他にも、

あえて反対意見を出す。
あえて難しい道を選ぶ。
あえて説明しない。
あえて普通の服で行く。

これらはすべて、「普通ならそうしないが、何か考えがあってそうする」という意味です。「あえて」は、ただ変わったことをするだけではありません。
その裏には、「理由」「意図」「狙い」があります。

「あえて」は積極的な表現

「あえて」の大きな特徴は、積極性です。たとえば、

彼はあえて何も言わなかった。

これは、ただ黙っていたのではありません。
「言うこともできたが、言わないほうがいいと判断して、意識的に黙っていた」という意味になります。つまり、「あえて」は行動するときにも、行動しないときにも使えます。

あえて言う
あえて言わない

どちらも使えます。大切なのは、「普通とは違う選択を、自分の判断でする」という点です。

「しいて」は、無理にする・無理に言う

一方、「しいて」は「無理に」という意味を持ちます。

特によく使われるのが、

しいて言えば
しいて言うなら
しいて選ぶなら

という形です。たとえば、

しいて言えば、欠点は少し説明が長いところです。

これは、「欠点と言うほどの大きな欠点はない。でも、どうしても欠点を挙げるなら、少し説明が長いところです」という意味です。つまり、「しいて言えば」は、はっきり言うほどではないことを、無理に言うときに使います。

他にも、

しいて選ぶなら、A案です。
しいて言うなら、少し地味です。
しいて反対する理由はありません。

このように、「しいて」は「本当は無理に決めたくない」「本当は特に言うことがない」という気持ちを含みます。

「しいて」は消極的な表現

「あえて」が積極的な表現だとすれば、「しいて」は消極的な表現です。たとえば、

あえて選ぶならAです。
しいて選ぶならAです。

この二つは似ていますが、ニュアンスが違います。

あえて選ぶならAです。
→ 普通は選ばないかもしれないが、意図的にAを選ぶ。

しいて選ぶならAです。
→ どれも決め手に欠けるが、無理に選ぶならA。

「あえて選ぶ」には、話し手の積極的な判断があります。
「しいて選ぶ」には、仕方なく選んでいる感じがあります。

「あえて言うなら」と「しいて言えば」の違い

特に間違いやすいのが、

あえて言うなら
しいて言えば

の違いです。どちらも「言うなら」という形で使えるので、似て見えます。しかし、ニュアンスは違います。

あえて言うなら、彼にはリーダー向きではない面がある。

この場合は、「言わなくてもいいが、踏み込んで言う」という感じです。
少し勇気を出して、または意図的に、普通なら避けることを言っています。
一方、

しいて言えば、彼にはリーダー向きではない面がある。

この場合は、「大きな問題ではないが、無理に挙げるならそう言える」という感じです。つまり、

あえて言うなら=言いにくいことを、意図的に言う
しいて言えば=特にないが、無理に言えばそうなる

という違いがあります。

「必要性」で考えるとわかりやすい

 また、「あえて」と「しいて」は、「必要性」で考えると理解しやすくなります。まず、「あえて」は、本来なら必要ないことをします。

あえて厳しいことを言う。

厳しいことは、言わなくてもいいかもしれません。
しかし、相手の成長のため、誤解を防ぐため、問題をはっきりさせるためなど、目的があって言います。

つまり、「あえて」は、

必要ないかもしれないが、目的があるからする

という表現です。一方、「しいて」は、必要に迫られて無理にする感じです。

しいて言えば、欠点は少しあります。

本当は欠点を言う必要はない。
しかし、「欠点を一つ挙げてください」と言われたので、無理に言う。

つまり、「しいて」は、

本来は必要ないが、求められたので無理にする

という表現です。

「あえて」と「しいて」の例文比較

次の例で比べてみましょう。

あえて欠点を言う。
→ 言わなくてもいい欠点を、目的があって言う。
しいて欠点を言う。
→ 特に大きな欠点はないが、無理に欠点を挙げる。

また、

あえて反対する。
→ 反対することで意味があると思い、意識的に反対する。
しいて反対する理由はない。
→ 無理に反対しようとしても、反対する理由がない。

このように、「あえて」は自分から動く感じ、「しいて」は無理に引き出す感じがあります。

「あえて」は行動に強い、「しいて」は判断・発言に強い

実際の使い方を見ると、「あえて」は行動に使いやすい表現です。

あえて遠回りする。
あえて古い方法を使う。
あえて一人で行く。
あえて黙っている。

一方、「しいて」は判断や発言に使われることが多いです。

しいて言えば
しいて言うなら
しいて選ぶなら
しいて挙げるなら

もちろん「しいて行う」「しいて求める」のような言い方もありますが、日常的には「しいて言えば」「しいて選ぶなら」の形が特によく使われます。

〔補足〕「あえて」と「わざと」の違いも少し注意

「あえて」は「わざと」とも似ています。

わざと間違える。
あえて間違える。

どちらも「意識的に間違える」という意味になりますが、ニュアンスが違います。

わざと間違えるは、「意図的に間違える」という意味です。
そこには、いたずら・悪意・作戦などが含まれることがあります。

あえて間違えるは、「普通なら間違えないが、何か目的があって間違える」という意味です。
たとえば、授業で学生に考えさせるために、先生があえて間違える、というような場合です。

つまり、「あえて」は単に意図的というだけでなく、「普通とは違う選択をする理由」が感じられる表現です。

まとめ

「あえて」と「しいて」は、どちらも「普通ならしないこと」「本来はしなくてもいいこと」に関係します。しかし、中心となる意味は違います。

あえて
→ 必要ないことを、目的があって自分からする。
→ 積極的・意図的。

しいて
→ 本来は必要ないことを、必要に迫られて無理にする。
→ 消極的・無理やり。

最後に、もう一度対比しておきましょう。

表現中心イメージ
あえてしなくてもいいが、目的があってするあえて厳しいことを言う
しいて本当はしなくてもいいが、無理にするしいて言えば、欠点は少ない

「あえて」は、自分から踏み込む表現。
「しいて」は、無理に絞り出す表現。

このように覚えると、使い分けがかなりわかりやすくなります。

「あえて」「しいて」表まとめ

以上です。

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