「やめる」「中止する」「キャンセルする」
・タバコをやめる。
・試合を中止する。
・ホテルの予約をキャンセルする。
この三つの言葉には、何かを「しないことにする」という共通点があります。しかし、使う場面や言葉の印象は違います。違いを考えるうえで重要なのが、和語・漢語・外来語という「語種」です。
今回は「やめる」「中止する」「キャンセルする」の違いを例に、語種による意味と語感の違いを考えてみましょう。
「やめる」「中止する」「キャンセルする」の違い
まず、違いを簡潔に表現すると、
やめる(和語)=行為を終える、またはしないことにする。
中止する(漢語)=予定された活動を取りやめる、または途中で停止する。
キャンセルする(外来語)=予約・注文・申し込みなどを取り消す。
ということになります。

「タバコをやめる」「試合を中止する」 「ホテルの予約をキャンセルする」
和語・漢語・外来語とは?
日本語の語彙は、由来によって大きくいくつかの語種に分けられます。それぞれの特徴と例を以下にまとめます。
| 語種 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 和語 | 日本語に古くからある言葉。日常的・身近な表現が多い | やめる・食べる・見る |
| 漢語 | 漢字音を基礎とする言葉。抽象的・公的・事務的な表現が多い | 中止・食事・確認 |
| 外来語 | 主に欧米などから取り入れた言葉。専門的・現代的な場面でも使われる | キャンセル・チェック・スタート |
もちろん、語種によって意味や使い方が機械的に決まるわけではありません。それでも、語種は言葉の印象を考えるための大切な手がかりになります。
三つの言葉を比較してみよう
「やめる(和語)」「中止する(漢語)」「キャンセルする(外来語)」の用法・意味を比較しましょう。
| 項目 | やめる | 中止する | キャンセルする |
|---|---|---|---|
| 語種 | 和語 | 漢語 | 外来語 |
| 中心的な意味 | 行為を終える・しないことにする | 活動を取りやめる | 予約などを取り消す |
| 主な対象 | 習慣・仕事・行動 | 試合・会議・行事 | 予約・注文・申込 |
| 語感 | 日常的・幅広い | 公的・事務的 | 手続き的・商業的 |
| 例文 | タバコをやめる | 試合を中止する | 予約をキャンセルする |
以下、個別に検討していきましょう。
「やめる」は最も広く使える
「やめる」は、三つの言葉の中で最も日常的で、使える対象が広い言葉です。
① 健康のためにタバコをやめた。
② 会社をやめることにした。
③ 疲れたので勉強をやめた。
④ 雨が降りそうなので散歩に行くのをやめた。
⑤ そんなことを言うのはやめなさい。
すでに行っていることを終える場合にも、これから行うつもりだったことをしない場合にも使えます。また、「やめてください!」のように、相手の行動を止める場合にも使います。
「中止する」は活動そのものを取りやめる
「中止する」は、予定されていた行事や活動を取りやめる場合によく使います。
① 雨のため運動会を中止する。
② 台風が近づいているので花火大会を中止する。
③ 本日の会議は中止になった。
④ 安全上の問題が見つかり、工事を中止した。
⑤ 大雨のため、試合を途中で中止した。
「中止する」は、始まる前の活動にも、すでに始まった活動にも使えます。また、「雨なので試合をやめます」よりも「雨のため試合を中止します」のほうが、主催者による正式な発表にふさわしい表現です。

「キャンセルする」は予約や申し込みを取り消す
「キャンセルする」は、英語の cancel から取り入れた外来語です。特に、予約・注文・申し込みなどを取り消す場合によく使います。
① ホテルの予約をキャンセルした。
② 飛行機の予約をキャンセルする。
③ レストランの予約をキャンセルした。
④ インターネットで商品の注文をキャンセルした。
⑤ 都合が悪くなったので、イベントへの申し込みをキャンセルした。
ここで「中止する」との違いを考えてみましょう。
主催者がコンサートを中止する。
→ コンサートそのものが行われなくなります。
観客がコンサートの予約をキャンセルする。
→ コンサート自体は開催されますが、その観客の予約が取り消されます。つまり、同じコンサートでも、活動そのものを取りやめるのか、個人の予約を取り消すのかによって使う言葉が違います。ただし、最近では「イベントをキャンセルする」のように、活動そのものの取りやめに「キャンセル」を使う場合もあります。

同じ「旅行」でも三つの表現が使える
三つの言葉の違いは、「旅行」を例にするとよくわかります。
① お金がないので旅行をやめた。
→ 旅行に行かないことにした。個人的な判断を日常的な言葉で表しています。
② 台風のため学校の旅行を中止した。
→ 予定されていた団体旅行そのものを取りやめました。
③ 都合が悪くなったので旅行をキャンセルした。
→ 予約していた旅行商品やツアーなどを取り消したという意味で自然です。このように、同じ対象について話していても、話し手が何に注目するかによって言葉が変わります。
言い換えられる? 言い換えられない?
次の表で、三つの言葉と名詞の組み合わせを確認しましょう。
| 表現 | 自然さ | 説明 |
|---|---|---|
| タバコをやめる | ◎ | 習慣を終える |
| タバコを中止する | △ | 通常は「喫煙を中止する」など |
| タバコをキャンセルする | × | 喫煙習慣には使わない |
| 試合をやめる | ○ | 日常的な表現 |
| 試合を中止する | ◎ | 公式な決定にも適する |
| 試合をキャンセルする | △ | 文脈によって使用可能 |
| 予約をやめる | △ | 予約することをやめる意味にもなる |
| 予約を中止する | △ | 予約受付を中止する場合など |
| 予約をキャンセルする | ◎ | 成立した予約を取り消す |
※ ◎=非常に自然、○=自然、△=文脈による、×=通常の意味では不自然。
和語・漢語・外来語比較 他の例
語種による違いは、ほかの言葉にももちろんあります。
| 和語 | 漢語 | 外来語 |
|---|---|---|
| 始める | 開始する | スタートする |
| 調べる | 確認する | チェックする |
| 助ける | 支援する | サポートする |
| 選ぶ | 選択する | セレクトする |
例えば「始める」は日常的な言葉ですが、「開始する」は公式な案内に適し、「スタートする」はスポーツや新しい取り組みなどの場面でもよく使われます。ただし、上の表に並べた言葉は完全な同義語ではありません。例えば「調べる」と「確認する」には意味の違いもあります。
和語・漢語・外来語は、単なる言い換えではなく、それぞれが固有の意味や使い方を持っている場合が多いのです。
練習問題
次の( )に最も自然な言葉を入れましょう。選択肢:やめる・中止する・キャンセルする
① 健康のため、お酒を( )ことにした。
② 雨のため、野球の試合を( )。
③ ホテルの予約を( )。
④ 先生に注意されたので、おしゃべりを( )。
⑤ 台風が近づいているため、花火大会を( )。
⑥ 注文した商品が不要になったので、注文を( )。
答えを見る
① やめる ② 中止する ③ キャンセルする ④ やめる ⑤ 中止する ⑥ キャンセルする
11.まとめ
「やめる」「中止する」「キャンセルする」は、どれも何かをしないことにするという意味を持っています。しかし、三つの言葉には、それぞれ中心となる意味があります。やめる=日常的で、幅広い対象に使える。
中止する=予定された活動を取りやめる。
キャンセルする=予約や申し込みなどを取り消す。
和語には日常的・身近な表現が多く、漢語には公的・事務的な表現が多く、外来語には現代的な制度やサービスと結びついた表現も多く見られます。ただし、語種だけで使い方が決まるわけではありません。意味・対象・場面・語感を合わせて考えることが大切です。

以上です。



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