「買う」と「売る」のいろいろな意味・用法について勉強しましょう。
「買う」「売る」は「パソコンを買う」「マンションを売る」のように、お金と物を交換する行為を表す言葉です。しかし、日本語では「買う」と「売る」は単なる売買だけでなく、人間関係や感情、評価にまで意味を広げています。
「喧嘩を売る」と「喧嘩を買う」
例えば「喧嘩を売る」「喧嘩を買う」という表現を比較してみましょう。
「喧嘩を売る」とは、相手に争いを仕掛けることです。
- 彼は先輩に喧嘩を売った。
- 挑発するような発言で喧嘩を売る。
一方、「喧嘩を買う」とは、その挑発を受けて立つことです。
- 売られた喧嘩は買う。
- 相手の挑発に乗って喧嘩を買ってしまった。
同じ「喧嘩」という出来事でも、仕掛ける側から見れば「売る」、受ける側から見れば「買う」になります。実は、「買う」と「売る」のさまざまな意味を理解するうえで、この関係は非常に示唆的です。
「買う」の意味の広がり
① 代金を払って自分の所有とする
もっとも基本的な意味です。
- パソコンを買う
- 本を買う
対価を支払い、自分のものにすることを表します。
② 相手に与えた良くない思いが自分に向く
- 顰蹙を買う
- 怒りを買う
- 反感を買う
- 恨みを買う
ここでの「買う」は、感情を受け取るという意味です。
例えば、「反感を買う」とは、自分の言動によって相手の反感が自分に向けられることをいいます。つまり、目に見えない感情を自分が引き受けるイメージです。
③ 価値を認める
- 努力を買う
- 彼女を高く買う
この場合の「買う」は「評価する」という意味になります。商品を買うときには、その商品に価値があると認めています。同じように、人の能力や努力にも価値を見いだすことから、「買う」という表現が用いられるのです。
④ 引き受ける
- 売られた喧嘩は買う
- 苦労は買ってでもせよ
ここでは「受けて立つ」「進んで引き受ける」という意味になります。特に「苦労は買ってでもせよ」は、自ら進んで経験を積むことの大切さを説くことわざとして知られています。
「売る」の意味の広がり
① 代金を受け取り相手の所有とする
- マンションを売る
- 車を売る
基本的な意味は、所有物を手放して対価を受け取ることです。
② 裏切る
- 国を売る
- 魂を売る
ここでは、本来守るべきものを手放すという意味から、「裏切る」という意味が生まれています。特に「魂を売る」は、信念や良心を捨てることを表す比喩表現です。
③ 仕掛ける
- 喧嘩を売る
- 媚びを売る
- 恩を売る
「売る」が「仕掛ける」という意味で使われる例です。喧嘩を売るのは争いを仕掛けること、媚びを売るのは相手に取り入ろうと働きかけること、恩を売るのは相手に恩義を感じさせるような行為をすることです。いずれも、自分から相手に何らかの行動を向けるという共通点があります。
④ 広く知らせる
- 顔を売る
- 名を売る
ここでは「知ってもらう」という意味になります。商品を売るためには人に知ってもらう必要があります。その発想が転じて、自分自身や名前を世間に広めることも「売る」と表現するようになりました。
「買う」と「売る」に共通するもの
こうして見てみると、「買う」は何かを受け取る側の発想、「売る」は何かを相手に向ける側の発想で使われることが多いことがわかります。
- 喧嘩を売る ⇔ 喧嘩を買う
- 感情を向ける ⇔ 感情を受ける
- 評価される価値 ⇔ 世間に知らせる価値
どちらの言葉も、単なる物の売買ではなく、「価値や感情、人間関係のやり取り」を表しているのです。
練習問題
最初にあげた文の「買う」「売る」と同じ意味で使われている文を、1~4の中から一つ選んでください。
問題1
- 父は新しいパソコンを買った。
- 上司は彼の努力を買って昇進させた。
- その政治家は国民の怒りを買った。
- 売られた喧嘩は買うつもりだ。
正解:3
問題2
- その態度は周囲の反感を買うだろう。
- 私は駅前で雑誌を買った。
- 彼女の能力を高く買っている。
- 売られた喧嘩を買う必要はない。
正解:3
問題3
- 古い車を売って新車を買った。
- 彼は有名になるために顔を売った。
- 仲間を裏切るような行為は国を売るのと同じだ。
- 彼は先輩に喧嘩を売った。
正解:3
問題4
- 彼は恩を売って見返りを期待している。
- 彼女は名前を売るために活動している。
- 彼は土地を売った。
- 彼は魂を売るようなまねはしない。
正解:1
※「喧嘩を売る」「恩を売る」はどちらも「相手に働きかける・仕掛ける」の意味。
おわりに
「買う」と「売る」は反対語として学ぶことが多い言葉ですが、その意味の広がりを見ていくと、日本語の豊かな比喩表現が見えてきます。
物を売り買いするだけでなく、感情を買い、評価を買い、名前を売る。そんな多彩な使い方に目を向けると、日本語の奥深さを改めて感じることができるでしょう。
まとめ

以上です。



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