中国の三つ折り傘と蘇州北寺の屑入れの話

カラフルな傘essay

中国の傘

 最近雨が多い。日本では大きめのジャンプ傘や透明のビニール傘も多くなっているが、主流は傘の骨が一か所で折れ曲がる二つ折り式の折り畳み傘である。

折り畳み傘

折り畳み傘

 中国では日本であまり見られない二か所で折れる三つ折り式の折り畳み傘がほとんどである。最近になってジャンプ傘もちらほら見るようになったという程度で、日本式の二つ折り式は見られない。

 中国の折り畳み傘は構造が複雑な分だけ、壊れ易かったりして、あまり好きではなかった。が、さすがに中国生活10年を超え、慣れてくると違和感もなくなり、小さく折りたためる分だけいいではないかと思うようになった。

 この三つ折りの傘に大きなメリットがあることに気がついた。

 日本では雨の日には、公共の場や商店には傘立てが欠かせない。ほんのちょっと立ち寄るコンビニなどでも傘立てがなければどうしようもない。要するに自立しない。

 我が三つ折りの傘はどうかというと、二つ折りの日本の傘とちがって、傘を閉じると自動的に三つに折れ曲がるという特徴がある。そして傘を閉じた状態でそのまま地面に“立つ”のである。

 だから、ちょっと建屋内に入って用事や買い物をという際に、立てかける場所や傘立てがなくともその場においておけるのである。入り口に置かれた傘は、ちょうどご主人様を外で待つペット犬のような風情になる。

雨の日のキャンパス内売店前

雨の日のキャンパス内売店前

 さすが中国!と感心した。

 が、本当にそこまで考えて三つ折りが中国の主流になったのかどうかは知らない。人間、とかく未知のものに触れると、何でもないようなものを深読みしたがる。

 しかしそういう深読みが新しい文化を生み出すようなこともあるという、昔読んだ話を、蘇州に行って思い出した。

蘇州北寺

 蘇州へはいつもバスで行く。蘇州の北広場駅でバスを降りると目の前が巨大は蘇州鉄道駅である。今は新しく建てられたビルの関係で見えにくくなっているのだが、以前は蘇州駅の前からは、北寺の高い塔が見えた。京都駅から東寺の塔がみえるようなもので、蘇州に来たなという思いになるのでなかなかいいと思っていた。

蘇州北寺

蘇州北寺

 実はこの北寺も「街道をゆく」の司馬遼太郎氏にはほとんど“シカト”されている。総じて司馬遼太郎氏の蘇州評は辛口である。

蘇州旧城の北郊に、「北寺」という広大な境内をもつ寺があり、塔が大きく突っ立っている。堂塔伽藍こそ無用なほどに大きいが、さして美しい建築とも思えない。僧はいないようで、今は公園としての市民の逍遥の場所になっている。

街道をゆく 中国・江南のみち(司馬遼太郎)

 司馬氏はこの北寺で待ち合わせをしていたのだが、待っている間興味を惹かれたのが、なんと宜興製の陶器のゴミ箱である。

 どろりと黄釉(こうゆう)をかけただけの陶製のこの屑入れがおもしろかった。蛙のようにひょうきんな目玉の顔つきの唐獅子が、胴は小さく頭は大きく、とびきり口を大きくあけて屑を投入されるのをまっているのである。

 と、そのものを客観的に描写した上で、

 型モノとして大量に焼かれたものだけに、釉薬(うわぐすり)なども無造作にかけられており、その作為のなさが、清以来の中国の美術工芸の弊ともいうべきわずらわしさから、あっさり抜け出ている。剽げていながら、最近の日本の焼きもののように、何かの味を狙ったわざとらしさがない。

街道をゆく 中国・江南のみち(司馬遼太郎)

宜興製の獅子型屑入れと「人人有责讲究卫生」標語

宜興製の獅子型屑入れと「讲究卫生 人人有责」の標語

 せっかくの塔をけなした後に、屑入れをほめている。さらに追い打ちをかけるように屑入れに描かれたありふれた標語にまで言及しておられる。

講究衛生 人人有責

もし、鎌倉末に留学した禅僧がこの種の文句にふれると、あるいは哲学的に深読みしてしまったかもしれない。(中略)日本文化には、かつての中国やその後の西洋に対して、この種の深読みをしてかえっておもしろさができあがっているところがないでもない。茶道も華道も、当時の中国の寺院生活から切り取ってきて、本家が想像もしなかった世界をうちたてたものといえる。

街道をゆく 中国・江南のみち(司馬遼太郎)

 日本人はまったくゼロからものを生み出すことには長けていない、しかし単純に外来の物をそのまま受け取って真似する、あるいはコピーするということも実はあまり得意ではない。なにやら、得体のしれない創造性に満ちた人々なのである。

 そして日中両国は一衣帯水といい、ついついその近さを強調し安心しがちである。が、実は中国と日本、日常使うものでも何かしらの違いがあり、お互いにその違いを過大評価したり、あるいは過小評価しあいながら、つかず離れずの理解で存続し続けているのかもしれない。

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