「しかし」は「しかしながら」の省略形です。意味は「しかし」を強調したものが「しかしながら」になります。「しかし」は「硬い話し言葉」として日常的に使われることがありますが、「しかしながら」は話し言葉ではもう少し硬めになり「演説」などで使います。
「しかし」が先か「しかしながら」が先か?
辞書を引くと、「しかしながら」は「しかし」を強調したものとあります。
「しかしながら」(接続詞):「しかし」を(強調した/きちんと言った)言葉。例)両者はよく似ている。しかしながら、本質は、まったく異なる〔かたい言い方〕三省堂国語辞典第八版
ただ言葉の成り立ちから言うと「しかありながら」という言い方から「しかしながら」になり、後に「ながら」が省かれて「しかし」になったようです。
「しかし」「さながら」の誕生
「しかありながら」すなわち「然+ありながら」の変化をたどると、「然」の読み方によって「しかしながら」「さながら」の二種の接続詞になって現代語に残っているようです。
「然(しか)しながら」→「しかしながら」という接続詞と、「然」を和語系の「然(さ)」と読み「然ながら」→「さながら」という接続詞になったということです。
「しかし」「さながら」意味の変遷
「しかありながら」は「しか=そのような、ありながら=ある状態のままで」、「そのような状態のままで」という意味であり、もともとは現在の「しかし」のような逆接の意味はありませんでした。
ただ、「しかありながら」は「しかし」に変わる過程で、後に続く描写を意識して「(前件の)そのような状態のままで」→「(後件は)結局」→「(後件は)要するに」という風に論理構造を示すように変化し、最終的に「前件を認め保留し、別事項を追加」する際の接続詞となりました。
「さながら」の方は「そのままの状態で」という意味を保持したまま「そのまま」→「まるで」という意味に落ち着いたようです。下図にまとめました。
「しかし」は単なる逆接とはいえない
さて現代語の接続詞ですが、「~のに、それなのに」の系統と「しかし、けれども」の系統の二種類あると考えてください。その違いについて以下の例を見てください。
例えば「~のに」「それなのに」などの逆接の接続詞は後件は「予想されるのとは違う」事実を表します。ですから
- ○ この品物は高い。それなのに物が悪い。
- × この品物は高い。それなのに物が良い。
下の「高いのに物が良い」という例は成立しません。
ところが「しかし」「けれども」などを使った場合
- ○ この品物は高い。しかし物が悪い。
- ○ この品物は高い。しかし物が良い。
両方成り立つのです。これは「~のに」系列の接続と違い、「しかし、けれども」は「後件」が単に「予想と違う(○か×か?)」だけでなく「予想を超える別の事実・意見」を添加できるということによるものだと考えられます。
(以上、基礎日本語辞典 森田良行著 角川書店、初級を教える人のための日本語文法ハンドブック 3Aネットワーク社刊などを参考にさせていただきました)
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