読解「いのち」阿部昭Ⅳ

飛翔するインコ

「日語総合教程」第六冊 第6課「いのち」阿部昭 を読みます。
前回(こちら)の続きです。

 朝起きて見ると、廊下の一角がまるで羽根布団クッションでも破いたみたいに、鳥の羽根だらけになっていることがある。猫は、小鳥を丸ごときれいに平らげてしまうから、口ばしも脚の一本も残ってはいない、おびただしい羽毛のほかには。
 猫が草の中にうずくまって、生きたままのすずめを骨ごとばりばりかみ砕いている音を聞くと、そぞろ戦慄禁じ得ないが、いっそさばさばした気もしないでもない。彼らのやり方はまことに単純明快である。

 ところで、ついこの間、よく晴れた日の午後、自分の部屋で仕事をしていると、すぐ横の草むらで、キ、キ、キ、キ、キ……という何物かの鋭い悲鳴がした。
 虫にしては、その声は大きく、しかも聞き慣れない声だ。
 見ると、子猫が――といっても身体つきはもう大人の猫並みなのだが――何か獲物追いつめている。
 私は縁側から出ていった。地面すれすれにはった松の枝と下生えの雑草との間に、押し込められたような格好で、一羽のセキセイインコもがいていた。

 私が鳥を助けてやろうと手を伸ばす、それよりも早く、猫はうなり声とともにインコをくわえて、茂みのもっと深いところへ逃げ込んだ。
 こうなると、もう私の手には負えない。それ以上猫を追いかけるのはあきらめたが、その代わりに、こんなふうに考えた。――猫が捕ったものは猫のものだからな。あいつが所有権を主張するのはもっともなことだ。それに、どうせ五分もすればきれいに食べてしまうんだろうから。

 ところが、インコの悲鳴はいっこうにやみそうにない。猫としては、久しぶりのご馳走だからゆっくり料理しようというつもりであったかもしれない。キ、キ、キ、キ、キ、……という絶体絶命の叫びが断続的に聞こえてきて、私はだんだん落ち着かなくなった。

朝起きて見ると、廊下の一角がまるで…

朝起きて見ると、廊下の一角がまるで羽根布団クッションでも破いたみたいに、鳥の羽根だらけになっていることがある。
早晨起床一看,走廊的角落处就像羽绒被、坐垫破了一样,鸟的羽毛散落一地。
猫は、小鳥を丸ごときれいに平らげてしまうから、口ばしも脚の一本も残ってはいない、おびただしい羽毛のほかには。

猫已把小鸟整个干净彻底地吃掉了,所以除了大量的羽毛,哪怕是鸟的嘴和一个爪子都没有剩下。

・平らげる:平らにする → ①平定する「国内を平らげる」、平らにする → ②そこにある食べ物をすっかり食べてしまう。「天丼を三杯平らげる」

 猫が草の中にうずくまって、生きたままのすずめを骨ごとばりばりかみ砕いている音を聞くと、そぞろ戦慄禁じ得ないが、いっそさばさばした気もしないでもない。

听到猫蹲在草丛里,把活生生的麻雀连骨头一起嘎巴嘎巴嚼碎的声音会不由得战栗,但也不是不会感到干脆痛快,

・ばりばり:「糊がきいてばりばりの浴衣」「羽目板をばりばりとはがす」「機銃掃射の音がばりばりと響く」「ばりばり(と)仕事を片付ける」「ばりばりの現役」
・そぞろ:①これといった理由もなくある感情がわき起こる。「そぞろに故郷を思う」②そわそわして気持ちが落ち着かないさま「夏休みが近づき気もそぞろだ」
・(cf.)そぞろあるき:気の向くままのんびり歩き回ること。
・(例)「温泉旅行の初日、夜、ホテルの前をそぞろ歩きした」
・さばさば:①小さな事にこだわらず、さっぱりしている。「さばさばとした性格の人」、②いやなこと気がかりなことがなくなり、気分がさわやかになるさま。「試験が済んでさばさばした」

~を禁じ得ない

ある状況下で、~という感情がわきあがってくるのを、自分では抑え込めない(コントロールできない)ことを示します。
彼らのやり方はまことに単純明快である。
它们的做法实在是简单明了。

ところで、ついこの間、よく晴れた日の午後、…

ところで、ついこの間、よく晴れた日の午後、自分の部屋で仕事をしていると、すぐ横の草むらで、キ、キ、キ、キ、キ……という何物かの鋭い悲鳴がした。
不过,就在不久前,在一个很晴朗的下午,我正在自己的房间里工作,听到旁边草丛里发生不知是什么动物的唧唧唧的尖锐的惨叫声。
にしては、その声は大きく、しかも聞き慣れない声だ。

要是虫子的话,那声音有些大,而且是不常听到的声音。

~にしては

「条件・立場への意外性」(ポジティブ・ネガティブどちらも表せます)
・今日は2月にしては暖かかった。
・このかばんは1000円にしては、丈夫でデザインもいい。
・この日本語は、日本人が書いたにしては間違いが多すぎる。
・この日本語は、中国人が書いたにしては間違いが全くない。
見ると、子猫が――といっても身体つきはもう大人の猫並みなのだが――何か獲物追いつめている。
一看,是小猫–虽说是小猫,但身体与大猫差不多了–在追赶着什么猎物。
・追いつめる:逃げ場のないところまで追い込む。ぎりぎりのところまで追求する。

「追いつめる」と「追い込む」

「追いつめる」は相手の心や状況を“追い詰めて”余裕を奪う。物理的なものに加えて、精神的・心理的な圧迫を与えるニュアンスが強い。「追い込む」も物理的にも比喩的にも使えますが、心理的ニュアンスは必須ではありません。

私は縁側から出ていった。地面すれすれにはった松の枝と下生えの雑草との間に、押し込められたような格好で、一羽のセキセイインコもがいていた。
我从外廊走了出去,在几乎爬到地面的松树枝与树下的杂草之间,一只黄背绿鹦鹉像被监禁一样地在那里挣扎。
・はる(張る):ここでは「広がって伸びる」の意味。「地中深く根が張る」「松の枝が四方に張る」
・もがく:苦境を逃れようとしてあせる、手足をしきりに動かす。
・(例)「水中でもがく」「どん底の生活からはい上がろうともがく」

私が鳥を助けてやろうと手を伸ばす、…

私が鳥を助けてやろうと手を伸ばす、それよりも早く、猫はうなり声とともにインコをくわえて、茂みのもっと深いところへ逃げ込んだ。
我伸出手想要救鸟,但比我更快,猫鸣鸣地叫着叼起鹦鹉逃向草更浓密的地方。
こうなると、もう私の手には負えない
这样一来我感到很为难。
・手に負えない:(慣)自分の力では処理しきれない。手に余る。
・(例)「手に負えない子供」
それ以上猫を追いかけるのはあきらめたが、その代わりに、こんなふうに考えた。
我放弃了继续追猫。另一方面,我这样想道:
――猫が捕ったものは猫のものだからな。あいつが所有権を主張するのはもっともなことだ。
因为猫抓到的东西就是猫的东西了嘛,它声张自己的所有权没有错误。
それに、どうせ五分もすればきれいに食べてしまうんだろうから。
并且,反正是五分钟就会吃得精光的。
・どうせ:ある事態を初めからそう決まったものと認める(あきらめ、自嘲の気持ちが入る)
・(例)「どうせ人間はいつか死ぬ」「どうせ私は何をやってもだめだ」

ところが、インコの悲鳴はいっこうに…

ところが、インコの悲鳴はいっこうにやみそうにない。
但是,鹦鹉的惨叫一点也没有停下的迹象,
・いっこうに(一向に):①まったく、全然。「何を言われてもいっこうに平気だ」、②(打消しを伴い)全面的な否定を示す。全く…ない。少しも…ない。「話が一向に進まない」「警告を受けてもいっこうに動じない」
・やむ(止む・已む):「雨がやむ」「風がやむ」「騒ぎがやむ」「砲声がやむ」「あくびがやまない」
猫としては、久しぶりのご馳走だからゆっくり料理しようというつもりであったかもしれない。
对猫来说或许是久违的美餐而想要慢慢地享用。
キ、キ、キ、キ、キ、……という絶体絶命の叫びが断続的に聞こえてきて、私はだんだん落ち着かなくなった。
唧唧唧的绝命的叫声断续传来,我渐渐地有些沉不住气了。
・絶体絶命:追いつめられて、どうにも逃れようのない状態、立場にあること。
・(例)絶体絶命のピンチに立たされる。
・(注)「絶対絶命」は誤り
 
つづきます。

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