読解「企業内の聖人」星新一Ⅴ

なにしろいいやつ

「日語総合教程」第六冊 第8課「企業内の聖人」星新一 を読みます。
前回(こちら)の続きです。

 というようなしだいで、その男は会社内において、周囲のだれからも愛された。愛されないまでも、反感を抱かれたりすることは決してなかった。
 しかし、心情的にはそうであっても、冷静な判断でとなると、こんな困った人物もいない。営利事業を構成する一員としての資格が、まるでないのだ。社の利益に少しもつながらないばかりか、少額とはいえ損をもたらしている。それなのに当人は、会社に身も心もささげているつもりで、大満足という快感にひたっている。

 直接の上役はいらいらした。あいつだって、何らかの意味で社に貢献はしている、と考えたいのだが、いかに無形の要素を導入して計算してみても、そういった答えは出てこない。また万一、彼の性癖が他の社員たちに伝染しはじめたら、とんでもないことになる。

 内心では「なあ、きみ。進むべき人生の道を誤ったんじゃないのか、もっとふさわしい職に移ったらどうだ」と辞職を勧告したいのだが、そうもできない。本人を前にすると、その文句が口から出なくなる。なにしろいいやつなのだし、陰でおれをほめたたえてくれている男なのだ。それを追い出すほど冷酷にはなれない。

 強引にそれをやったとしたら、さぞ寝覚めが悪いことだろうなあ。当人に落ち度は何もなく、愛社精神の権化なのだ。彼に同情する人々が黙っていないだろう。労組も騒ぐかもしれない。
 また、首にしたりしたら、彼は失意と絶望のあげく、本当に首をくくりかねない。彼の日常の愛社ぶりから、そんなふうにも思えるのだ。

 それにしても、足手まといであることはたしかだった。周囲の者は、どうも調子が狂いがちになる、また、彼がいるためにその課の成績が落ち、ボーナスの額に影響してくる。だからといって、排斥する気にもなれない。人徳に対抗しうる力は存在しない。

というようなしだいで、その男は……

というようなしだいで、その男は会社内において、周囲のだれからも愛された。
因为上述这种情况,这个男子在公司里被周围的所有人所喜爱。
・しだい(次第):①順序「式次第」→②現在に至るまでの事情。いきさつ。なりゆき。「事の次第を述べる」「事と次第によっては由々しき事態となるだろう」

「~しだい」について

愛されないまでも、反感を抱かれたりすることは決してなかった。
就算说不上喜爱,但抱有反感的事绝不会有。
・「打消し+までも」:~には及ばないが…。
・(例)毎日とは言わないまでも、二日に一回は勉強するようにしている。
・までも:事態の及ぶ限界を示す。「あなたまでも私を裏切るの。」
しかし、心情的にはそうであっても、冷静な判断でとなると、こんな困った人物もいない。
但是即便感情上是这样,但冷静一想,如此麻烦的人也少有。赤字
営利事業を構成する一員としての資格が、まるでないのだ。
作为营利团队的一员的资格简直就没有,
社の利益に少しもつながらないばかりか、少額とはいえ損をもたらしている。
不仅与公司的利润毫不相关,虽然金额不大却也在给公司带来亏损。
それなのに当人は、会社に身も心もささげているつもりで、大満足という快感にひたっている。
尽管如此,他本人却以为为公司奉献了全部身心,沉浸在无比满足的快乐之中。
・ささげる(捧げる):①物などを両手で高く差し上げる「賜杯を高々と捧げる」→心を込めて、真心・愛情・生命などを差し出す。「教育に一生を捧げる」「恋人に愛を捧げる」

直接の上役はいらいらした。

直接の上役はいらいらした。イライラする上司
直接的上司焦躁不安起来,
あいつだって、何らかの意味で社に貢献はしている、と考えたいのだが、いかに無形の要素を導入して計算してみても、そういった答えは出てこない。
他想认定即便是这家伙在某种意义上也还是在对公司做着贡献,但不管如何地把一切无形的要素计算进去也找不到答案。
また万一、彼の性癖が他の社員たちに伝染しはじめたら、とんでもないことになる。
另外,万一他的毛病传染给其他职员,可就是不得了的大事了。
・性癖:人の性質に見られるかたより。性質上のくせ。
・くせ(癖):無意識に身についてしまった言行・習慣行動。

内心では「なあ、きみ。進むべき人生の道を……

内心では「なあ、きみ。進むべき人生の道を誤ったんじゃないのか、もっとふさわしい職に移ったらどうだ」と辞職を勧告したいのだが、そうもできない。
“喂,你呀,你的人生道路走错了吧?转到更适合你的职业怎么样?”在内心里想这样地劝他辞职,但也做不到。
・ふさわしい(相応しい):あるものにつり合っていて適当であるさま。「実力にふさわしい地位」「リーダーとしてふさわしくない」
本人を前にすると、その文句が口から出なくなる。
在他本人面前,这种话就说不出口了,
・文句:①語句、②相手に対する不平・不満などの言い方。苦情。「いちいち文句を言うな」 ここでは①の意
なにしろいいやつなのだし、陰でおれをほめたたえてくれている男なのだ。それを追い出すほど冷酷にはなれない。
不管怎样也是个好人,在背后还说过自己的好话,自己做不出把他赶出去那么冷酷无情的事。
・なにしろ:他の事情はどうであれ。なんにしても。ともかく。結果的にその一点に尽きると判断する様子。
・(例)何しろ忙しくて食事をとる時間もない。
・(例)見てくれはともかく、なにしろ安いのがとりえだ。

強引にそれをやったとしたら、さぞ寝覚めが……

強引にそれをやったとしたら、さぞ寝覚めが悪いことだろうなあ。
望如果非要那么做的话,想必以后一定会受到良心谴责的,
・寝覚め:眠りから覚めること。めざめ。「寝覚めが悪い」
当人に落ち度は何もなく、愛社精神の権化なのだ。
他本人什么过失也没有,是热爱公司精神的化身。同情他的人也不会沉默的吧。
・落ち度:あやまち。手落ち。「当方に落ち度はない。」「自分の落ち度(責任)を認める。」
・権化:①仏・菩薩が衆生を救うためこの世に姿を現すこと→②ある抽象的な特質が具体的な姿となって表れたと思えるような人やもの。「悪の権化」「美の権化」労組
彼に同情する人々が黙っていないだろう。
同情他的人也不会沉默的吧。
労組も騒ぐかもしれない。
工会也可能要闹事。
・労組(ろうそ):労働組合(ろうどうくみあい)の略。
また、首にしたりしたら、彼は失意と絶望のあげく、本当に首をくくりかねない。
还有,如果炒了他的鱿鱼,他失意和绝望的结果很可能真的会上吊自杀。
・首にする:解雇する
・首をくくる:自殺する
彼の日常の愛社ぶりから、そんなふうにも思えるのだ。
从他平常热爱公司的样子自然会想象出这一点。
・ーぶり:枝ぶり、話しぶり、仕事ぶり、繁盛ぶり、飲みっぷり

それにしても、足手まといであることは……

それにしても、足手まといであることはたしかだった。
尽管如此,他是拖累却是事实,
・足手まとい:手足にまとわりつくように、そばにいて、自由な行動の妨げになること。「子供が足手まといになって動きがとれない」「足手まといな存在」
周囲の者は、どうも調子が狂いがちになる、また、彼がいるためにその課の成績が落ち、ボーナスの額に影響してくる。
周围的人(的工作状态)往往容易出现不正常。另外,因他的存在,那个科的业绩就会下降,就会影响奖金的额度。ボーナス袋
・狂う:正常な機能が失われる。
だからといって、排斥する気にもなれない。
但大家并未因此产生排斥他的念头。
・排斥(はいせき):受け入れがたいものをして、拒み退けること。「偶像崇拝を排斥する」
人徳に対抗しうる力は存在しない。
对抗品德的力量是不存在的。
・うる(える 得る):…できる。「そんなことがあり得るだろうか。」「出来得る限りのことはします。」
 
つづきます。

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