読解「企業内の聖人」星新一Ⅲ

企業内の聖人Ⅲ

「日語総合教程」第六冊 第8課「企業内の聖人」星新一 を読みます。
前回(こちら)の続きです。

 つまり、その男の仕事ぶりは、それ以後もずっとそんな調子だったのだ。ひとつのことにとりかかると、それに心から没入してやりとげ、あとに好印象を残す。それはそれでいいことなのだが、給料分の働きになっていない。新入社員に対して「ほどほどにやればいいのだ」とも言えず、上役は頭を悩ました

 考えたあげく上役は、その男に別な仕事をやらせることにした。
「集金は別な者に代らせる。きみには新規の取引先開拓のほうを頼みたい」
「はい。社のためであれば、どんなことでも喜んでやります。そのような重要な分野にまわしていただき、心のひきしまる思いです」
 男は張り切って答えた。おまえは無能だから交代させるのだとの意味なのだが、それが通じないのか、いやな顔ひとつしない。

 かくして、たずさわる分野は変わったが、仕事ぶりはやはり同様だった。怠けているわけではなく、新しい取引先を確実に開拓はするのだが、それがまことにゆっくりなのだ。社が支払う給料に見合っていない。
 だが、当人は毎日、元気に街へ出てゆく。
「社のために、心血をそそいでがんばります」
と大声であいさつをして出かける。

事実その言葉どおりに熱心であり、当人もそれに生きがいを感じている。それだけに、始末が悪いのだ。熱心とか誠実、正直さや愛社心、そういった徳目と企業内での能率とが、彼の上において一致していないのだ。また、同僚に比べ成績があがらぬことで劣等感を感じてくれればいいのだが、残念なことにそういうマイナス的な性格は持ち合わせていないらしい。

 彼は社の金を使っての、いわゆる社用族としての飲食はしなかったが、必ずしも酒を飲まないというわけではなかった。人づき合いが悪いということもなく、会社の帰りには同僚とともにバーに入ることもあった。

つまり、その男の仕事ぶりは、…

つまり、その男の仕事ぶりは、それ以後もずっとそんな調子だったのだ。
总之,那个男子的工作在那以后一直是那种状况,
・ぶり(振り)接尾語:その物事のようす・状態・あり方などを表す。「話しぶり。仕事ぶり・枝ぶり・繁盛ぶり・飲みっぷり」
ひとつのことにとりかかると、それに心から没入してやりとげ、あとに好印象を残す。
干上一件事就全身心地投人彻底干好,给以后留下好印象。
・没入:①一つのことに熱中すること。没頭。「研究に没入(没頭)する。」②すっかり沈んでしまうこと。「海中深く没入する。」
それはそれでいいことなのだが、給料分の働きになっていない。複雑な心境の上司
这虽然是好事,但工作的量却达不到与工资成比例的量,
・それはそれで~:そのことはひとまず~としておいて(=それはそれとして)
新入社員に対して「ほどほどにやればいいのだ」とも言えず、上役は頭を悩ました
又不能对新职员说“别太认真差不多就行了”的话,上司感到很伤脑筋。
・ほどほど(程程):ちょうど良い程度であるさま。適度。「お酒はほどほどにしておきなさい。」

考えたあげく上役は、その男に……

考えたあげく上役は、その男に別な仕事をやらせることにした。
考虑到最后上司决定让这个男子干别的工作去。
・あげく(挙げ句):①連歌・連句の最後の七・七の句。→②(多くは「~たあげく」)ある物事を十分にしたすえ(に)。~したその最後(に)。
・(例)さんざん迷った挙げ句、買わなかった。

「集金は別な者に代らせる。きみには新規の取引先開拓のほうを頼みたい」
“收款让别人去干,想请你做新客户开发的工作。”

・新規:新規事業、新規分野、新規顧客。ビジネス用語としての反対語は「既存」

「はい。社のためであれば、どんなことでも喜んでやります。
“是!只要为了公司,什么工作我都会高兴地去做。
そのような重要な分野にまわしていただき、心のひきしまる思いです」
您让我到那么重要的部门去,我感到精神振奋。”
・引き締まる:①ゆるみがない。「引き締まった体」、②気持ちが緊張ししっかりする。「身のひきしまる思い」

ますます張り切る男

男は張り切って答えた。
男子干劲十足地答道。
・張り切る:ピンと張る→物事に意欲をみなぎらせる。「仕事に張り切る」
おまえは無能だから交代させるのだとの意味なのだが、それが通じないのか、いやな顔ひとつしない。
上司的意思是因为你无能才要换人的,但他并不明白这一点,不高兴的表情一点也没有。

「ひとつ」について

いやな顔ひとつしない。〔全否定の「ひとつ」〕

かくして、たずさわる分野は変わったが、……

かくして、たずさわる分野は変わったが、仕事ぶりはやはり同様だった。
虽然就这样改变了从事的工作,但工作状态仍然照旧。
・たずさわる(携わる):ある物事に(特に仕事として)関係する。従事する。
怠けているわけではなく、新しい取引先を確実に開拓はするのだが、それがまことにゆっくりなのだ。
并不是在偷懒,的的确确地做着开发新客户的工作,但是着实地缓慢,
社が支払う給料に見合っていない。
与公司支给的工资不能相抵。
・見合う:①互いに相手を見る。②両方のつり合いが取れる。対応する。合う。(例)「この政策は日本の実情に見合っている。」「収入に見合った生活をする」
だが、当人は毎日、元気に街へ出てゆく。
但是,他本人却每天精神十足地走出去。
「社のために、心血をそそいでがんばります」と大声であいさつをして出かける。
“为了公司全力以赴去努力!”大声地告别后便出发了,
・心血(しんけつ):その人の精神と肉体(のすべて)。「心血を注ぐ(捧げる)」

事実その言葉どおりに熱心であり、……

事実その言葉どおりに熱心であり、当人もそれに生きがいを感じている。
事实上他也是像所说的一样倾注着热情,他本人也在其中感受着人生的价值。
それだけに、始末が悪いのだ。
正因为如此,结局很不好。
・始末:①全体の成り行き「最後に泣き言を言いだす始末だ」②あとでめんどうなことが起きないように物事の決まりをつけること。「始末に困る」「始末に負えない」「始末が悪い」「始末をつける」
熱心とか誠実、正直さや愛社心、そういった徳目と企業内での能率とが、彼の上において一致していないのだ。
热情、诚实、正直以及热爱公司等这些品德名目与企业内的效率,在他身上是不一致的。
・徳目:徳を分類した細目こと。儒教の仁・義・礼・智・信など。
また、同僚に比べ成績があがらぬことで劣等感を感じてくれればいいのだが、残念なことにそういうマイナス的な性格は持ち合わせていないらしい。
还有,如因与同事相比成绩很差感到自卑的话还可以,遗憾的是,他好像不具有这种负面性的性格。
・持ち合わせる:ちょうどその時に所持している。
・(例)今、そんな大金は持ち合わせていない。
「併せ持つ、兼ね備える」の意味で「持ち合わせる」を使うのは誤用。
・× 人情味と正義感を持ち合わせている。

彼は社の金を使っての、いわゆる……

彼は社の金を使っての、いわゆる社用族としての飲食はしなかったが、必ずしも酒を飲まないというわけではなかった。4人で飲み会
他不用公司的钱吃饭,即不是那种挥霍公款族。但他也未必就不喝酒,
・社用族:社用にことよせて、会社の費用で飲食・遊興する人々。〔斜陽族をもじってできた語で昭和26年(1951年)〕に流行した。

人づき合いが悪いということもなく、会社の帰りには同僚とともにバーに入ることもあった。
和人的交往也不坏,有时也在下班时与同事一起去酒吧。

・ひとづきあい(人付き合い):他人とのつきあい。交際。「人づき合いがよい」

つづきます。

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