「心」と「腹」を使った日本語能力試験N1レベルの表現についてまとめます。
「心」or「腹」?
( )内には「心」、「腹」どちらが入るでしょう?
・取引先との交渉では、まず相手の( )を探ることが重要だ。
・どんな結果になろうと、( )をくくってチャレンジするしかない。
・敵対していても何も進まない。ここは( )を割って話そう。
・彼は悩んでいたが、ついに( )を決めて会社を辞めることにした。
解答はすべて「腹」です。意味的には「心」が入ってもおかしくないような文ですが、(2番目、5番目は「心」でも可、その他は「腹」しか入りません)。なぜか日本語では「腹」を使います。
腹が黒い | 心の中に悪い考えを持っている。 「あいつは善人ぶってるが腹黒いから気をつけろ。」 |
腹を探る | それとなく相手の気持ちをうかがう。 「交渉の最初は腹の探り合いに終始した。」 |
腹をくくる | 何があってもいいように腹を決める。度胸をすえる。〔もと西日本方言〕 「悩んだあげく腹をくくった。」 |
腹を割る | 隠さずに本心を打ち明ける。 「腹を割って話せばたいていの誤解は解ける。」 |
腹を決める | (もう迷わずに)決意する。 「19の時、腹を決めて芸人になることにした。」 |
日本人が「心」と「腹」についてどのように考えてきたのか、少し考えてみましょう。
語源から見た「こころ」と「はら」
「こころ」の語源
「はら」の語源
「こころ」と「はら」の関係
「腹」については②の「広い場所=原のようなところ」という説に従えば、人間の胴体の広い部分が「腹」であり、「こころ」は内臓で、「腹」の中で「凝り」固まった部分ということになります。
そして想像を逞しくすれば、もともと内臓全体を指していた「こころ」はドキドキしたり、苦しくなったり、やたら自己主張の強い「心臓」を指すようになり、近世以降、医学的知見も加わり、精神作用もそこで営まれると考えられるようになると「こころ」の代表として「心」の字があてられるようになったのかもしれません。このようなことから、
先の「腹が黒い、腹を探る、腹をくくる、腹を割る、腹を決める」などの表現は、上記のような日本人独特の身体感覚によるものといえるでしょう。
「心」を使う表現
そのような観点で以下の「心」を使う表現をみると、日本人にとっての「心」があくまで表面的に一種の外部とのインターフェイスとして機能する”心”の状態を指すものだということが感じ取れるのではないでしょうか。
心ゆく | 気が晴れる、満足する。 「心ゆくまで語り明かした。」 |
心持ち | ①気持ち。②わずかに、やや。 「心持ち大きい」=「気持ち大きい」とも |
~心地 | ①心や体で感じる気分、②それが身体に与える気分の良さ 「生きた心地がしない」「乗り心地」「住み心地」 |
心当たり | ①心に思い当たること。②見当をつけた場所。 「就職口なら心当たりがある」「心当たりを探す」 |
心得る | 物事の事情や意味するところを良く理解する。 「扱いを心得ている」「心得ました!」「絵の心得がある」 |
心がける | いつも心に留めておくよう気をつける。 「貯蓄を心がける」「安全第一を心がける」 |
心苦しい | 心に痛みを感じるさま、申し訳なく感じるさま 「彼の苦労を思うとー」「こんなに親切にしてもらってー」 |
心遣い | あれこれと気を配ること 「温かい心遣いが身に染みる」 |
心細い | 頼るものがなく不安である。 「一人で行くのは心細い」「たくわえが心細い」 |
以上、新明解語源辞典(三省堂)、日语综合教程第五册(上海外语教育出版社)などを参考にしました。
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