常熟語について

常熟方塔

方言という言葉自体は日中共通で用いるが、中国における方言は日本人の思うところの方言とは、かなり趣が異なる。例えば常熟方言、南通方言などというより常熟語、南通語といった方がふさわしい。中国の方言は普通語(標準語)とは同じ言語とは思えない程度に違うものが多いからだ。

“十里不同音”という中国語があるそうだ。中国には方言が数多くあり特に南半分では地域ごとにお国言葉があり、かつその訛り方はただ事ではない。十里(5㎞)離れた場所に住む人とは言葉が違って通じないという中国語独特の誇張表現と思っていた。

それが決して誇張ではないことを常熟、南通と移り住んだ私は実感している。南通語については別の機会に詳しく言及したいと思うので、とりあえず常熟語について述べたい。

常熟語も標準語とはずいぶん異なる。私も中国語はある程度勉強して中国にやって来たが、常熟生まれの人間に本場の常熟語でしゃべられると、まったく意味不明の言語に聞こえる。それもそのはず、私のような外国人はおろか、別の地域からやってきた中国人でも何を言っているかわからない。

何かで読んだが中国で一番わかりにくい方言は、1位温州語、2位は南通語だそうである。私に言わせれば常熟語も南通語並みだと思うのだが、上位には入っていない。しかしそれは単に常熟という都市の知名度が低いというだけのことであろう。

日没する処の南通から
南通大学は距離的に日本から最も近い中国なのです。初めて南通大学啓東キャンパスの職員宿舎で朝を迎えたときの朝日の美しさが忘れらなません。そしてちょうど朝日の昇る方向に日本があるはずです。日本という国はこちら側から見れば、文字通り“日出づる処の国”なのです。

お互い全くわからないと言ったが、近接するお隣の地域同士ではどことどこが似ていて何とかコミュニケーションが取れる、反面こちらとそちらは地理的にはお隣り同士でも、言葉は全くチンプンカンプンなどということもある。たとえば南通語について、ごく簡潔に述べておけば、市内にある4つの方言はお互いに通じにくい。ただし1つは上海人と交流可能、1つは揚州地方の官話に近い。そして南通市の中心で話される狭義の南通語とも言える2種は中国の他の地方のどこの方言とも似ていない、つまり交流できないということらしい。(聞いた話なので正確さに欠くかもしれないが、南通語が相当複雑なことは確かである。)

常熟中心江南地図常熟語を話す人はどうかというと、上海人の話す上海語も、無錫人・蘇州人の話す方言もなんとか理解できるという。地図を見ればなんとなく納得できる。上海、蘇州、無錫と隣接しており、交流を妨げるものは地理的にも、文化的にもなさそうだ。常熟人として生まれ常熟語で暮らしても、この辺りで生活する分には不便はないようである。

外来者の常熟語に対する印象。たとえば日本人にとって常熟語の音は、といっても私の個人的感覚かもしれないが、他の地域の言語に比べると耳ざわりが良い感じがする。しかし意思疎通がはかれるかというと絶望的。残念なことに手の付けようがない。

わかりにくい方言ナンバーツーの南通では、街中に“請講普通話(標準語を話しましょう。)”という看板がかかっており、こちらが外国人であるとわかれば標準語で応対してくれる人が多い。常熟人はというと、若者はともかく、ある程度年配の方ではそれなりのプライドがあるのか、普通語に切り替えてくれる人は残念ながら少ない。ちょうど大阪人が東京に行っても大阪弁で通すのに似ているというようなことであろう。

 

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