渋沢栄一と福沢諭吉(「戦後日本経済史」開講に向けて①)

渋沢栄一の一万円札

この紙幣の人物は渋沢栄一といいます。

2021年NHK大河ドラマ「青天を衝け」

NHK大河ドラマを見たことがありますか。日本歴史上の重要人物にスポットをあてたドラマで、主人公の一代記が一年にわたって放映されます。日本人には根強い人気のあるシリーズです。今年2021年放映中の大河ドラマは「青天を衝け」。主人公は渋沢栄一(1840-1931年)、演じるのは吉沢亮さん。イケメン俳優さんですね。

青天を衝け1

「青天を衝け」で渋沢栄一を演じる吉沢亮

7月の最初の放送では、吉沢亮さん演じる渋沢栄一はすでに27歳になっています。その中で、彼は1867年日本政府を代表してフランスを訪れ、パリ万博を見物します。そして、産業革命の成果である蒸気機関などを見てびっくり仰天してしまいます。長く続いた鎖国の間に、西洋列強諸国に対して、すっかり遅れをとってしまった日本という国が、象徴的に描かれていました。

パリ万博渋沢栄一

1867年パリ万博での渋沢栄一

渋沢栄一は、明治維新を契機に日本が近代工業国家へ脱皮しようとする時期、日本初の銀行や、多くの企業や大学の設立に関わり大活躍。日本の「近代資本主義の父」あるいは「近代経済の父」と呼ばれるようになるのです。

「経済」という言葉の語源

経世済民Economicsここで改めて「経済(经济)」という言葉の語源についてご紹介しましょう。「経済」は「政治」「哲学」「化学」などの言葉と同じく、日本人が作り、中国に逆輸出した言葉の一つです。

「経済」という言葉は、日本が西洋のエコノミクス(Ecnomics)という概念を取り入れる際、中国の古典から探し出した「経世済民」という言葉を略して訳語としたものと言われています。「経世済民」とは「世を経(おさ)め、民を済(すく)うこと」という意味です。

「経世済民」という漢語を、Economicsに当てるということ自体は江戸時代の人が考え付いていたようなのですが、これを「経済」という言葉として来るべき日本の近代化のために不可欠のものとして、広く日本人に広めようとしたのは、”現在”の1万円札に描かれている福沢諭吉(1835-1901年)という人です。

福沢諭吉は渋沢栄一と同時代の人、5歳年上になります。
福沢諭吉の1万円札

福沢諭吉の1万円札

福澤諭吉

福沢諭吉という人を紹介します。お札に採用されるくらいですから、この方も日本人によく知られた人物です。一言でいうと彼は、明治維新を経て日本が近代化される中、人民を導く思想基盤のようなものを提示した人と言えます。

よく知られているのは、彼の一般人へ向けた著作「学問のすすめ」ですが、その冒頭は、

天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。

で始まります。日本人で知らない人はいません。

それまで長く続いた江戸時代。日本人は「士農工商」という固定された身分制度の下で過ごしてきました。新しい日本人は“国民”として、近代国家を築き上げるための原動力とならなければなりませんでした。

福沢諭吉は、“日本人”が「国民」つまり西洋的な「市民」となることを促した人です。そして近代化のために、Economics、つまり経済あるいは経済学などの西洋の学問が重要であることを示した人なのです。(Politics=政治という訳語も福沢諭吉の訳語です。)

渋沢栄一

そして福沢と同時代の渋沢栄一は、福沢諭吉の啓蒙思想を実行に移した実学の人です。彼は日本初の銀行を作り、約500の会社の設立と、約600の非営利社会事業に直接関わりました。そして近代社会に適応した人材育成のために、多くの大学設立にも尽力します。一橋大学もその中の一つ。そして、それらの超人的な功績によりノーベル賞候補にもなりました。

まさに近代化日本が進んでゆく経済活動の基盤を、たった一人で作り上げた巨人ともいうべき人ですね。

福沢諭吉と渋沢栄一

福沢諭吉と渋沢栄一

現代日本に受け継がれる渋沢栄一の経済思想

日本経済の父と言われる渋沢栄一の考え方には少し特徴があります。詳しくは著書の「論語と算盤」をぜひ読んで感じ取ってほしいです。以下は私なりの理解です。

「武士は食わねど高楊枝」という言葉があります。武士たるもの、貧しくて満足な食事ができなくても楊枝を用い、まるでお腹いっぱいであるかのように振舞わなければならないとう、武士の清貧の思想、プライド、あるいはやせ我慢?を示す慣用句です。その伝統を引き継ぐ私たち日本人は、豊かであること、つまりお金がたくさんあること、そしてお金のことを優先して考えることを卑しいことと考える癖がありました。

渋沢栄一は、金を卑しいものとして嫌う武士道文化を否定します。金儲けそのものは卑しいものではない。得たお金の使い方によって卑しいかそうでないかが決まる。自らが得た財を、広く民衆の幸せに使うならば、金儲けつまりビジネス自体は徳のある行動の一つなのである、というのです。

今学期は「戦後日本経済史」初開講です。基本的には1945年以降の日本経済の動きを学習します。しかし日本経済を理解する時、明治維新を境とする日本の変革期に活躍した渋沢栄一と福沢諭吉、特に「日本近代経済の父」と呼ばれる渋沢栄一について知っておくことは大切なことだと思います。

「青天を衝け」時間があればいかがでしょう。

 

経済の時代(「戦後日本経済史」開講に向けて②)
「経済」とは「経世済民」つまり、「世を治め、民を救うこと」であり、その「経済」の手法を学ぶことは、明治維新後の日本つまり国家が近代化する過程でとても重要になるということを説明しました。今日は「経済」という言葉についてもう少し深掘りしてみましょう。

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