旅の備忘録(4)田中正造Ⅳ~さんけんきょう~

イノシシ注意!

 湖の周囲が9.2キロメートル、その北にかつて谷中村、現在は整備されたアシの湿地帯である遊水地となっているのだから、とても全部を歩き回るというわけにはいかない。幸い、ハートマークの谷中湖の上部の凹んだ部分、つまり共同墓地、雷電神社などあった旧谷中村の中心地近くに、ウォッチングタワーがあり、高いところから全体を見渡すことができるようになっていた。

掃除のおばちゃんに遭遇

 広大なエリアであったが、ほとんど人の姿を見なかったが、タワーの上部にでると野良作業用のなりをした50過ぎぐらいのおばちゃん二人が、ベンチに横になっておしゃべりに夢中の様子。私が上がっていくと、いたずらを見つかった子供のように二人目を合わせてコロコロ笑い出し、慌てて立ち上がろうとする。
イノシシ出没「どうぞ、ごゆっくり」
 といっても、引き続き笑い声が言葉にかわる気配なく椅子に座りなおす。大阪のおばちゃんなら、このあたりから話がはずむのだが、こちらの女性は純粋なのかもしれない。ずっと二人して、女子学生の如く笑っているので、なにか、言葉らしき発してほしいと、
「いろんなところにイノシシ注意の看板出てますが、イノシシ見たことありますか。」
聞くと、
「いるいる、いっぱい」
「怖いんですが…」
「いいや、おとなしくてかわいいもんよ」
もう一人のおばさんも答えてくれた。そこまで言うと二人はそそくさとタワーを降りていった。
 イノシシというものを実際に見たことはない。しかし、遭遇してもそう怖いものではないようだ。「落石注意」もそうだが、「イノシシ注意」と言われてもいったい何を注意すればよいのかわからない。要は、相手を変に刺激したりしないように注意しなさい、ということらしい。

ウォッチングタワー

手前「谷中村」遠く「足尾山」

 ウォッチングタワーは、去りがたい場所であった。谷中湖、谷中村、そして昨日上った足尾山が見える。周囲360°のビデオは撮っておくが、教室で平面的なビデオを見るだけでは伝わるものは少ないかもしれない。
 この場所で、舘林、足尾での田中正造にかかわる旧跡をたどる旅は終えることにする。

帰り道

イノシシを見た道、通り過ぎてから後方を撮影(イノシシは左のアシの中に消えていった)

 ハートマークの中心を通りここまで来たが、帰りはハートの外周を歩いて、出発点である東武鉄道伊勢崎線、柳生駅を目指す。歩き始めて数分、30メートルぐらい先だろうか、アシの林の中から、ひょっこりイノシシが現れる。道を渡り水辺の方に行こうとしたのだろう。
 私に気が付き、目が合う(合ったような気がする)と、これまたいたずらを見つかった小学生のように(私にはそう思えた)、猛獣らしからぬ、軽やかなステップでアシの林に消えていった。
 かつての私なら、思わずUターンし別の道を探ったことだろう。しかしおばちゃんの話を聞いていたので、ここは怖がるところではないと、そのまま、やや緊張しつつまっすぐ歩いて帰路に就いた。

さんけんきょう

 駅までの道に「さんけんきょう こちら→」という看板があり興味本位で矢印をたどってみた。

 「さんけんきょう」とは「三県堺」。つまり栃木県、埼玉県、群馬県の三つの県の境となるポイントということで、ちょっとした名所?になっているようだ。
 ちょっと連想した話がある。司馬遼太郎『街道をゆく』のどこかに「寝物語の里」というのが出てくる。確か近江と美濃の国境に溝があり美濃側と近江側の家が隣り合っていて、寝ながら話ができたので「寝物語の里」と呼ばれるようになったとか。
 「さんけんきょう」(三県境)という名称もいいが、町おこしならもうちょっと気の利いた名前をつけてみてもよかったかもしれないと、思った。

 

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