新明解国語辞典は今年50歳

新解さんは50歳

新明解国語辞典(新解さん)は50歳

新明解国語辞典第4版

新明解国語辞典第4版

 新明解国語辞典の初版は1972年1月に発行されていますから、今年2022年は人間で言えば50歳を迎えたことになります。いうまでもなく新明解国語辞典は日本でいちばんよく売れている小型辞典であり、中国版のカシオ電子辞書にも搭載されているので日頃よく使っている人もいるでしょう。

 新明解国語辞典がいちやく脚光を浴びたのは、1989年に発行された第4版から。随所に発見できる辞書らしからぬ個性的な語釈が話題になりました。

はくとう【白桃】身の肉が白い桃。果汁が多く、おいしい
 本来、客観的な記述が求められる辞書に、堂々と「おいしい」などと主観的意見のような記述を加えた語釈が話題を呼び、辞書に人格が宿っているようだということで辞書ファンからは「新解さん」と呼ばれるようになりました。

「新解さん」の恋愛観の推移

 今回は、新明解国語辞典(以下「新解さん」)の中で最も有名な「恋愛」という言葉の語釈について時代を追ってご紹介しましょう。

第4版「新解さん」17歳の恋愛観

 新明解国語辞典第4版は、前述のように初版から17年後1989年に発行されています。新解さんは17歳、青春真っ盛りです。

れんあい【恋愛】特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる(まれにかなえられて歓喜する)状態。
合体ロボ「出来るなら合体したい」気持ちが恋愛の本質、というのが17歳(おそらく男性)である「新解さん」の恋愛観だったようです。そして「まれにかなえられて歓喜する」という表現がカッコ付きであることからも、彼「新解さん」の青春時代は、基本的に「ひどく心を苦しめる」ものであったにちがいありません。
 ちなみに「合体」という言葉は当時も今もあまり一般的に使われる言葉ではありません。意味を知りたい人は、新明解第4版で「合体」という言葉を引いてみることをお勧めします。

第5版「新解さん」25歳の恋愛観

 第5版は1997年、新解さん25歳の秋に発行されました。

れんあい【恋愛】特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと
若者新解さん さすがに17歳の時のような直情的な恋愛観ではなく、精神的一体感を分かち合いたいということを最初に挙げてくることからも、新解さんの精神的成熟が感じられます。
 特筆すべきは「まれにかなえられて歓喜したりする」のカッコ付きは外れ、その状態に「身を置く」と付け加えられていることです。どうやら「ついに新解さんも彼女ゲットか!?」ということをにおわせてくれます。

第6版「新解さん」33歳の恋愛観

 第6版は2012年、働き盛りの33歳になりました。

れんあい【恋愛】特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。
39歳 新解さんの人生は順調なようです。おそらく仕事を持ち、家庭を持った新解さんは、相手のことを思いながらも、忙しい生活の中で二人だけの世界を満喫できない毎日を過ごしているのでしょう。
 それだけに、もしや彼女が浮気でもしていないかと、ちょっとでも疑念が生じれば不安にかられることもあったのかもしれません。

第8版「新解さん」50歳の恋愛観

 最新の第8版は2020年11月発行です。新解さんも50になりました。

れんあい【恋愛】特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。
50歳 実は第7版(新解さん39歳)の恋愛の語釈は第6版と全く同じ。第8版ではLGBT(性的マイノリティーの皆さん)への配慮から、「異性」が「相手」と修正されてはいますが、その他の部分に手は加えられていないようです。
 確かに、50歳になって恋愛もくそもないのでしょうね。新解さんはもう恋愛には関心がなくなったようです。

新明解国語辞典第8版、ニューエントリーワード

 そのかわりと言ってはなんですが、新明解国語辞典第8版(新解さん50歳)には第7版までにはない次の言葉が加わっていました。

しゅうかつ【終活】人生の終わりに向けて準備をする活動。エンディングノート作成、身辺整理などを通して、人生を総括し、余生を有意義に生きること。
 なるほどね。
ちなみに第4版で「合体」を引くと以下のように書いてあります。
がったい【合体】①起源・由来の違うものが新しい理念の下に一体となって何かを運営すること:「公武合体」②性交の、この辞書でのえんきょく表現。
(本記事は「新解さんの謎」赤瀬川原平著(文芸春秋社)などを参考にさせていただきました。)
 

コメント

タイトルとURLをコピーしました