「ぜんぜん」or「ちょっと」?
高校生向けの問題について質問を受けました。以下の問題みなさんならどれが正解だと思いますか?
・先生の授業は( )わかりません。 1.だんだん 2.だいたい 3.ぜんぜん 4.ちょっと
初級の問題であるという前提で考えると正解は3.の「ぜんぜん」、つまり正しい文は「先生の授業はぜんぜんわかりません」であると答えました。本当にこれが正解でしょうか?
「ぜんぜん」を正解とするには、実は二つの前提があります。まず一つ目。初級日本語で程度表現は
- だいたいわかります
- 少しわかります
- あまりわかりません(否定で呼応)
- ぜんぜんわかりません(否定で呼応)
のような段階があると教えます。否定で呼応するのは「あまり…ない」と「ぜんぜん…ない」です。そして二つ目。
「ちょっと」は「少し」の口語的表現である
とも教えます。以上二つの前提に立てば先の問題の正解は「先生の授業はぜんぜんわかりません」以外に考えられないし、出題者の出題意図も「ぜんぜん…否定」の言い方を知っているかどうかの確認にあるのだと思います。
正解は「先生の授業はちょっとわかりません」
では、日本語教師でない普通の日本人にこの問題を見せたらどうでしょう?多くの人が正解は3.つまり「先生の授業はちょっとわかりません」と答えるのではないでしょうか。
まず、次のことがポイントです。
「先生」は単独で使えば二人称、つまりこの言葉は先生に向かって発話しています。
これが友達同士の会話の一部であれば、
〇 田中先生の授業はぜんぜんわからないよ。
という表現はありえます、しかし
先生に向かって「ぜんぜんわからない」と言うことはまずありえません。
だからここは婉曲的な意味合いも含めて「ちょっとわからない」しかありえないのです。
「ちょっと」は「少し」の口語ではない
「ちょっと」には多くの意味があります。
「少し」は比較的簡単で a little という意味なのですが、「ちょっと」は「少し」の意味に加えて、言いにくいことを遠まわしに表現したい時の婉曲(遠回しの)表現としても使われます。
その大切さは、日本で発行された「みんなの日本語」「できる日本語」といった代表的日本語テキストでは、初級の最初に「No」の意味の「ちょっと…」を学ぶことでもわかります。
正しい表現
以上まとめの意味で正しい例文を作ると以下のようになるでしょう。
- 先生!先生の授業はちょっとわからないんです。(今度質問にお伺いしてもいいですか?)
- あの先生の授業、ぜんぜんわからないよ。どうしよう。
「ちょっと…否定」の意味
人気の漫才コンビ「サンドウィッチマン」のギャグの一つでもある「ちょっとわからない」。「ちょっと」は「婉曲」表現であると同時に、否定をともなって「たやすくは、簡単には」という意味でよく使います。以下のように使います。
- 私にはちょっとできそうもありません。
- それはちょっと考えられないね。
こういう用法が日本語の難しいところであり、また面白いところでもあるのです。
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