読解「木の葉の魚」安房直子Ⅴ

木の葉の魚Ⅴ牡丹

前回( →こちら )の続きです。

 林の中の小さな家は、やがて魚の匂いでいっぱいになりました。それにつれて、家の中は米や豆や野菜や果物でいっぱいになりました。魚を食べたいばかりに、人々はとっときの食物を持ってやって来たのでしたから。そのうちに、アイの夫は山番の仕事をやめました。お姑さんも畑仕事や縫い物をやめました。アイの夫は、時々もらいものの野菜や豆をかごに入れての村に売りに行きました。そうして、いくらかのお金を作って戻って来たのでしたが、ある日のこと、アイに一枚の美しい着物を買ってきたのです。

 それは白地に、椿の花がほとほとと散っている着物でした。その花びらの、ぽってりとした赤がアイの心をくすぐりました。ま新しい着物を手にしたのは生まれてはじめてのことでしたから。アイは涙が出るほどうれしいと思いました。突き上げてくる喜びのの中で、アイは海の神様への後ろめたさも里の母親の注意もさらりと忘れました。新しい着物を抱き締めて、この鍋がお前を幸せにすると言った母の言葉はこういうことだったのかと自分なりに解釈したのです。

 それからというもの、アイは喜んで魚を焼くようになりました。
 アイの家に魚を食べにくる人々の群れが細い山道にひしめきました。アイの家はどんどん豊かになり、アイは美しい着物を何枚も持てるようになりました。
 そうして、それから、どれほどの月日が過ぎたでしょうか。
 激しい雨がまるまる七日降り続いたある明け方のこと―

 三人はドドーッという不気味な音を聞きました。それから、家がぐらりと大きく揺れるのを感じました。「山崩れだ!」アイの夫が叫びました。
「後ろの崖が崩れて来る!」とお姑さんも叫びました。たちまちのうちに、天井メリメリと鳴り、柱が揺れました。ああ、家が潰れる……もう逃げることもできずにアイの夫が畳の上に蹲った時、いきなりアイが言ったのです。

 「いいや、違う……」と。それからアイは天井を見上げて、
 「あれは海の波の音だ」とつぶやきました。

それからというもの、アイは喜んで魚を焼くようになりました

「~からというもの」「~を皮切りに」「~を機に」

それをきっかけにどうなった? という表現

「~からというもの」

「~を皮切りに」

「~を機に」

たちまちのうちに、天井がメリメリと鳴り、柱が揺れました。

「たちまち」と「たちどころに」

「たちまち」「たちどころに」比較絵

「たちまち」「見る間に」「あっという間に」

「たちまち」「見るまに」「あっという間に」まとめ

「たちまち」「見るまに」「あっという間に」まとめ

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