「象は鼻が長い」「僕はウナギだ」「コンニャクは太らない」

象は鼻が長い、僕はウナギだ、コンニャクは太らない

象鼻文、ウナギ文、コンニャク文

  ずっと以前から日本語を研究する人の間で論争になっていて、いまだにはっきり結論の出ていない課題があります。表題の三つの文を日本語文法の中でどう解釈するかという問題です。これら三つの有名な日本語は略して「象鼻文(ぞうはなぶん)」「ウナギ文」「コンニャク文」などと言ったりします。

  • 「象は鼻が長い」の主語はどれ?
  • 「僕はウナギだ」は 僕=ウナギ?
  • 「コンニャクは太らない」はコンニャクが痩せること?

 上の3つの文は日本語として正しい文です。「象は鼻が長い」は意味的には問題ないでしょう。ただ主語はどれかと聞かれたら「象」なのか「鼻」なのか迷いますね。「僕はうなぎだ」というのは、例えば食べ物屋で注文する時「私はカレー、あなたは?」「僕はウナギ」という会話が成立します。「コンニャクは太らない」はおわかりと思いますが「コンニャクを食べても太らない」という意味です。

 長い論争の中で現時点で共通認識としてみとめられつつある考え方は、

日本語には主語はない
 ということです。主語というものを特別な存在として考える必要はないということです。だからなくてもいいという考え方です。
 I am a cat.の「I」は主語ですが、「私は猫です」の「私」は「主題」と考えます。これが「は」は主題をみちびく「とりたて助詞」と呼ばれる所以です。

とりたて助詞「は」による主題化

 前提として、とりたて助詞「は」の機能、つまり「主題化」についておさらいしておきましょう。

 張さん が  中南城 で  李さん と  牛丼 を  食べた。
という文があった時、日本語では主格「張さん が」だけを「主語」として特別視することはせず、格助詞で述語動詞「食べた」に繋がれた「張さん」「中南城」「李さん」「牛丼」はすべて同等で並列的に見た方が良いということを説明しました。
 下の図のように格成分は横並びと理解しましょう。
張さんが中南城で李さんと牛丼を食べた

張さんが中南城で李さんと牛丼を食べた

平等なそれぞれの格成分のどれかを「看板」のように主題化して、文のテーマとして際立たせる役割を担うのが、とりたて助詞「は」ということになります。

  • 張さんは  中南城で  李さんと  牛丼を  食べた。
  • 中南城で  張さんが  李さんと  牛丼を  食べた。
  • 李さんと  張さんが  中南城で  牛丼を  食べた。
  • 牛丼  張さんが  中南城で  李さんと  食べた。
図でまとめると以下のようになりますね。
格成分の主題化

格成分の主題化

誤解を恐れず言えば、ほとんどの日本語の基本構造というのは「客観的な描写文」の中から「話題」にしたい成分に「は」をつけて主題化して前置し、

主題+解説

の順に並べたもの、という見方ができます。

お待たせしました。では以上の理解のもとに「象鼻文」「ウナギ文」「コンニャク文」を見てみましょう。

象は鼻が長い

 「象の鼻が長い」という文があったとします。これは「…が〔形容詞〕」「空が青い」と同じ形の形容詞分です。この中の「象の鼻」を主題化すれば「象の鼻は長い」ですね。

 主題化は各成分に限らず可能なのです。「象の鼻」ではなくその中の「象」を主題にしようと思えば「象は鼻が長い」という文ができあがります。

象の鼻が長い→象は鼻が長い

象の鼻が長い→象は鼻が長い

 つまり「象は鼻が長い」という文は「象の鼻が長い」という客観事象を表す文で「象」を主題(テーマ)としてとりたてた文である、という解釈ができます。

僕はウナギだ

 これも「象は鼻が長い」と同様の文型の「僕の注文がウナギだ」という文が元になっていると考え、同じ主題化をやってみると「僕の注文はウナギだ」「僕は(注文が)ウナギだ」「僕はウナギだ」というバリエーションが考えられます。

僕の注文がウナギだ→僕はウナギだ

僕の注文がウナギだ→僕はウナギだ

 「注文が」という主格成分については最終的に「省略される」と考えずに、必要ないので「最初から文成分としてはない」というのが現在の考え方です。

コンニャクは太らない

 元になる文の形は上の2つと異なりますが、「コンニャクで体は太らない」の「コンニャク」を主題化して「コンニャク(で)は(体は)太らない」→「コンニャクは太らない」となります。

コンニャクで体が太らない→コンニャクは太らない

コンニャクで体が太らない→コンニャクは太らない

(以上、日本人のための日本語文法入門 原沢伊都夫著、中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック3Mネットワーク刊、などを参考にさせていただきました。)

 

 

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