京都大学について
京都大学は1897年(明治30年)東京大学に次ぐ日本で2つめの官立の大学として創立されました。今年2022年で125周年を迎える歴史ある大学です。
中国人の日本の大学についてのイメージは、京都大学は東京大学に次ぐ2番目の大学というような捉え方をしている人が多いのではないでしょうか。その認識は全く違っています。(どうも中国では何でもランキングのように縦一列に並べないと気が済まない人が多いように思います。)
京都大学は2つめにできた大学ではあっても、ナンバー2であることを拒否し続けた大学でした。かといってナンバー1を目指すのではなく、あくまで自重自敬を旨とし自主独立であるべきという創立時の理念があり、その伝統が長く受け継がれています。
自由とハングリー精神
近代日本を支えていく中枢人材を育成する大学として帝国大学(東京大学)がすでにあるのですから、中央を離れた場所にある京都大学の人間には、物事をやや斜に構えて見る傾向があります。そのことはあながち悪いとも言えず、学問をするために本来不可欠な”自由”を駆使できることにつながっています。
ところが自由の見返りとして、国家からそうそう大きな予算をもらえるわけではない。つまり東大に比べて圧倒的にお金がない、という実質的な悩みがずっとありました。
そこで京都の研究者は考えました。まともにやれば東大や世界に勝てっこない。ならば人のやらない分野を狙って研究を進めようではないか。結果ノーベル賞につながるようなオリジナリティある研究成果が続出…
というのが、あながち嘘とも言えない”都市伝説”です。
大切な批判的思考力
また、京大生は一般的に批判精神旺盛です。
日本や欧米の国の若者なら、程度の差はあっても、何とか現状をもっとよくするために世の中を変えられないかと思い悩むものです。場所柄京都の学生とりわけ京都大学の学生にはそういう気概を強く持つ若者が多いように思います。
いきおい反体制的になる。”反体制”というと言葉の響きは悪いですが、既存のものに疑問を投げかける能力はよく言えば「批判的思考力」、現代の人間が備えなくてはならない大切な能力の一つだと思います。
少なくとも日本の高等教育では、与えられた問題を解く能力より問題そのものを疑い修正する力、さらには真の課題のありかを探し当てるクリティカルシンキング(Critical thinking)を鍛えることの重要性が叫ばれています。
平成3年度京都大学卒業式式辞から
毎年注目される京都大学の卒業式ですが、3月24日に行われた卒業式の式辞で現総長の湊長博氏は以下の三つをもって卒業生を送る言葉とされています。
- 健全な批判的精神
- 他者への繊細な感性とエンパシー
- 自由で底抜けに明るい楽天主義
「健全な批判的精神」というのが第一に来る当たりがいかにも京都大学らしいのです。
以下、式辞の後半部分からの引用です。
「赤毛のアン」の言葉
まず卒業生の新たな旅立ちに向けて、100年以上前に発表されたカナダのモンゴメリー夫人による小説『赤毛のアン』の主人公アン・シャーリーの言葉を引用されます。
“I love bended roads. You never know what may be around the next bend in the roads.”
私は曲がり角のある道が大好きだ。次の角を曲がったら、一体どんな景色なのか、どんな人と出会いどんな出来事が待っているのか、わくわくする、といったところだと思います。この大河小説の底流に一貫しているのは、人生と自然への自由で尽きない好奇心と他者への限りないエンパシー、そして底抜けに明るい楽観主義です。
これから先の皆さんの人生には多くの曲がり角が出てくると思いますが、近道や最短距離を歩く必要はありませんし、回り道や遠回りをすることを恐れる必要もないと思います。
Stay hungry, stay foolish!
そしてスティーブ・ジョブス伝説のスピーチから
かつてスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチのなかでアップル創業者のひとりであるSteve Jobs は、こう述べています。
“The only way to do great work is to love what you do. If you haven’t found it yet, keep looking until you find it. Don’t settle”
さらに、スピーチの最後をあの”Stay hungry, stay foolish”という有名な言葉で結んでいます。この「foolish」という言葉には、「clever」である必要はない、回り道を恐れるな、という意味が込められていると私は思っています。
健全な批判的精神を!!
そして以下のように締めくくります。
皆さんのこれからの人生の曲がり角の向こうには、大事な人たちとの出会いが幾度も待っているでしょう。そして時には予想もできないような人たちとの新しい出会いが、やがて皆さんの人生を形づくっていくことになることでしょう。
これから皆さんが進まれる道が、さらなる研究の継続であれ実社会での新生活であれ、私は皆さんに、
・健全な批判的精神
・他者への繊細な感性とエンパシー
・自由で底抜けに明るい楽観主義
を備えた独立した社会人として、力強く羽ばたいていかれることを心から期待をして、私からの祝辞に代えたいと思います。
これからの時代、放っておけば世の中はどんどん均質化していくでしょう。
そんな中、京都大学にはこれからも自主独立の伝統を守ってもらいたいと思っています。
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