「重い」と「重たい」の違い
「重い」と「重たい」はほとんどの場合取り換えがきくようです。
以下のように、実際の物質の重さを示す場合も、「責任」の大小のように比喩として使う場合も共に同じように使えるようです。
〇 重い石 | 〇 重い責任 |
〇 重たい石 | 〇 重たい責任 |
では、次の場合はどうでしょう。財布の重さ、ダンベルの重さを表す時です。
これらの例では「重い」の方がより適しているように思えます。
〇 重い財布 | 〇 重いダンベル |
△ 重たい財布 | △ 重たいダンベル |
「いやだなあ」という気持ちが入る「~たい」
別の例を見ましょう。
- 〇:AはBより10グラム重い。
- △:AはBより10グラム重たい。
つまり、重さを客観的に示す場合は「重い」の方が自然です。これに対し「重たい」には「重くて疲れる、苦痛だ」というネガティブな感情が入ってきます。
「たい」には精神的な苦痛が隠れている
のです。
先の例で言うと「石」や「責任」の重さにはどちらかというと「いやだ」という気持ちが入ってしまうのに対して、「財布」や「ダンベル」の重さについてはネガティブな感情を生じない。だから「重たい」には多少違和感が生じるということになります。
「重たい」の「たい」の語源
「重たい」の「たい」は、昔の日本語の「いたし(いたい)」です。「いたし」は「甚だしい」という意味で「痛い」の語源でもあります。
「重たい」=いたく重い(とても重い)
と考えて良いでしょう。
そして、「重い/重たい」のような「客観的/ネガティブ」という意味上の違いのあるペアはそれほど多くありません。「重い」「眠い」「煙い」ぐらいでしょう。
重い | 重たい |
眠い | 眠たい |
煙い | 煙たい |
「冷たい」は?
では「冷たい」はどうでしょう?
「重い」と「重たい」の関係のように「冷い」と「冷たい」のペアがあるのでしょうか??
もちろん「冷い(つめい)」などという言葉はありません。
実は「重たい」と「冷たい」は形は似ていますが成立の仕方が全然違うのです。
「冷たい」の語源は「爪が痛い(つめがいたい)」
冷たいと実際に指先(爪)が痛くなることから「つめいたし」→「つめたし」→「つめたい」という言葉ができたようです。
「爪が痛い」→「冷たい」なら「はなはだ重い」→「重たい」とは結果的に同じ語形になっていても、全く別物ですね。
(以上、「新明解語源辞典」「日本語はこわくない」飯間浩明著〔PHP出版〕を参考にさせていただきました)
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