自分の仕事人生を振り返ってみますと、40歳から60歳の間は、なんらかの形でマネジメントをする立場でした。課長職、部長職、次いで会社を変わり小さいながらも組織全体のマネジメントを任される中国での仕事も経験させていただきました。さらに小さい語学教室を5年間中国で責任者として運営しました。この20年間、マネージャーとして鍛えられたことは、実はリタイアした後も、日常生活でとても役に立っています。
私のようなレベルの人間が偉そうにマネジメントについて語るのは本当におこがましいですが、少々お付き合いください。
マネジメントとは何か?
おもしろい語釈で有名な新明解国語辞典(第7版)で「管理」をひくと、「そのものを全体にわたって掌握し(絶えず点検し)、常時意図する通りの機能を発揮させたり、好ましい状態が保てたりするようすること」とあり、「マネジメント」の項には「管理・経営」とあります。
たぶん編者の山田忠雄博士は「管理」されるのがお嫌いだったのでしょう。
辞書でも管理とマネジメントは同義語と記されているように、一般的に「マネジメント」とは「管理」することだと思っている人も少なくないのですが、実際は「管理」は「マネジメント」の機能面のほんの一部を指すにすぎません。ではマネジメントとは何かというと、
まず私なりの結論は、
ではないかと、思います。困難に遭遇し、動けなくなった時にとりあえず進んでいく方向を見つけ出すことが「マネジメント」の中心的な意味だと思います。
マネジメント(何とかする)ために必要なたった三つのこと
そしてこのマネジメント(何とかする)のために必要なことは、とても簡単な三つのことを実行することだと思います。
相手の立場に立って考える
若い頃、上司に「ビジネスの面談というのは、いかに早く相手の立場を理解できるか、という競争だ。」と教わった覚えがあります。松下幸之助の言葉だそうです。
ビジネス上のコミュニケーションに限らず、日常の業務、あるいは上司、部下との交流においても、相手の置かれている状況を理解すること、相手の立場に立って考えることは、簡単なようで、実はとても難しいものです。マネージャーにとって大切な資質の一つです。
私は日本語学科の上級生向けの授業で、司馬遼太郎の「21世紀に生きる君たちへ」という文章をよく使います。以下に一部抜粋します。
「やさしさ」 「おもいやり」 「いたわり」 「他人の痛みを感じること」 みな似たような言葉である。 これらの言葉は、もともと一つの根から出ている。 根といっても、本能ではない。だから、私たちは訓練をして それを身につけねばならない。その訓練とは、簡単なことだ。例えば、友達がころぶ。ああ痛かったろうな、と感じる気持ちを、そのつど自分でつくりあげていきさえすればよい。 21世紀に生きる君たちへ(司馬遼太郎)
「やさしさ」つまり「相手の立場に立つこと」は、生まれつき備わっているものではなく、訓練によって身につけることができる。これは私が若者に声を大にして伝えたいことです。
実は世の中の多くの問題は、自分のことを優先していてはわからない場合が多く、多くの場合、自分の外側、つまり相手の立場に立つことによって見えてくることが多いものだと思います。
解決すべき問題に優先順位をつける
解決すべき問題がみつかったら、実は問題の半分は解けています。本当の解決すべき問題が何なのかわからず袋小路に入る人は意外に多いものです。
ただし、問題が明確になっても、問題は往々にして連続して起こります。多くの課題が同時に発生し、一瞬組織全体がパニックに陥ることもあります。
普通の人間の頭脳は、多くの問題を同時に解決するようにはできていません。あらゆる可能性、リスクを洗い出した上、最終的に最も優先すべき問題について、「AかBか?」の二択問題に絞り込みます。そして、勇気を出して進むべき方向を決めます。それを自分の責任において決めるのがマネージャーの仕事です。
答えのない二択問題に答えを出す
実はリーダーに突き付けられる二択問題には、必ずといっていいほど正解はありません。これはあたりまえのことで、正しい方が見えるような問題は、リーダーでなくても答えがだせるからです。
課長や部長なら、さらに上に判断を仰ぐこともできますが、自分の後ろに相談する者がない立場になると、自分に向けられた問題は二択のどちらを選んでもダメだというものがほとんどです。
つまり、通常二択問題で考えられる組み合わせ、①A,Bどちらを選んでも大丈夫、②Aを選んだ方が良い、③Bを選んだ方が良い、④A,Bどちらを選んでもダメ、の4つの組み合わせのうち、マネージャーに突き付けられる主な問題は④になるということです。
ここでAかBか?あるいはどちらでもないCを選ぶか、とにかく判断をしていく能力がマネジメント、つまり「何とかする」力量なのではないかと思います。
残念ながらこの能力は座学や研修で身に着くものではなく、現実のビジネスの場で、本当に追い込まれないとつきません。
しかしこの能力は一旦体で覚えてしまえば、仕事だけでなく、人生で問題に遭遇した時も必ず役に立ちます。
ゼネラリストの時代へ
平成不況以来、日本ではどちらかというとスペシャリスト重視で、ゼネラリストたるマネージャーというのは不人気。例えばヘッドハンターから「あなたは何ができますか?」と聞かれ、「部長ができます。」などと答えるのは、年功序列社会でぬくぬくと昇進してきた、時代遅れのダメおやじをコケにするギャグでしかありませんでした。
ただリタイア後、中国の大学で「管理」される立場になって、自分が長年かけて習得した日本式マネジメント能力というのは、そう馬鹿にしたものでもないな、とふと思ったわけです。
これからの時代、「管理」ではなく「マネジメント」つまり「なんとかする力」を持っていることは、ビジネスの世界に限らず、何かと武器になると思うのですが、どうでしょう?
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