「戦後日本経済史」開講へ向けて

戦後日本経済史キャッチ

先学期の「日本経済」に続いて、9月からは日本語学科4年生向けに「戦後日本経済史」という授業を受け持つことになりました。今学期はテキストがあります。野口悠紀雄」「戦後経済史」の中国語版です。(中国語版タイトルは「战后日本经济史」)

中国語版のテキストがあることで授業のフォローをしやすくなる半面、先学期の「日本経済」講義では伝えることがなかった、野口悠紀雄氏の経済史におけるおもしろい仮説を理解いただくことが必要になりますので、あらかじめご紹介します。

それは

「戦後から現在に至る日本経済の体制は、戦後、連合国軍GHQの民主化政策により打ち立てられたものではなく、むしろ戦争に向かう1940年代に確立されたものが基になっている。」

そしてその40年体制とは、

「市場原理をむしろ否定し、強い政府により強制的な重点的資源配分する一種の社会主義的経済体制である」

とする仮説です。

以下、「戦後経済史」プロローグから引用します。

彼ら(官僚)の理念は産業の国家統制です。企業は公共の利益に奉仕すべきであり、利益を追求してはならない。また、不労所得で生活する特権階級の存在を許してはならない、という考えです。これは、社会主義の思想です。事実、岸が目指したのは日本型社会主義経済の建設でした。(中略)岸たちの考え方は、当時の世界で広がりつつあった思想でした。共産党が一党独裁体制を敷くソビエト連邦ではいうまでもなく、ドイツでも「国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)が政権を獲得しました。資本主義の本家であるアメリカ合衆国においてさえ、フランクリン・ルーズベルト政権の下で、ニューディール派が社会主義的な政策を次々と打ち出していたのです。
其理念是对产业实行国家统制。他们认为企业必须为公共利益做奉献,而不得追究私利.此外也不允许不劳而获得的特权阶级的存在。事实上,岸的目标是建设日本式的社会主义经济。(中略)岸信介们所信奉的思想当时正在世界范围内不断扩张。德国是”德国社会主义劳动党(纳粹)”获得了政权。就连资本主义大本营的美国,富兰克林・罗斯福政权的新政派也接二连三地抛出了政府主导型政策。

(上記で岸とあるのは後に総理大臣となる岸信介のことで、革新官僚として椎名悦三郎らと40年体制を作り上げる立役者となった人です。)

1万円札渋沢

2024年から使われる予定の渋沢栄一の1万円札

奇跡的な戦後復興の達成、そしてそれに続く高度経済成長を作り出し、さらにはその後のバブル経済とその崩壊、さらに平成不況の泥沼から抜け出せなくなったことにいたるまで、日本経済を支配している体制が、およそ80年前、戦争へ向けて形作られた40年代体制であるというこの説。みなさんはどう思われますか?

渋沢栄一と福沢諭吉(「戦後日本経済史」開講に向けて①)
今学期は「戦後日本経済史」初開講です。基本的には1945年以降の日本経済の動きを学習します。しかし日本経済を理解する時、明治維新を境とする日本の変革期に活躍した渋沢栄一と福沢諭吉、特に「日本近代経済の父」と呼ばれる渋沢栄一について知っておくことは大切です。

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