みんなの日本語(初級1)第13課の重要ポイントについて考えます。
「~は~がほしいです」「~は~を(が)…たいです」
自分の欲しいもの、やりたいことを伝えることができるこの課の文型は学習者にとっては、すぐにでも使ってみたくなる表現でしょうね。文の型は第5課、第6課、第9課とのつながりで導入してもいいと思います。
「~は~が〔希望〕」
「…は〇〇が~」の構造を持つ文型のうち、第9課では、以下の図の「感情」:私はイタリア料理が好きです。「能力」:私は日本語がわかります。などについて学習しました。
- 私は日本語が好きです。(第9課)
- 王さんはテニスが上手です。(第9課)
- 李さんは数学が苦手です。(第9課)
- 張さんは韓国語ができます。(第9課)
- 楊さんは車があります。(第9課)
第13課は、希望・欲望を表す表現です。
- 私はお金がほしいです。(第13課)
- 私は焼き肉が食べたいです。(第13課)
全体を以下のようにまとめましょう。
「~は~が…たいです」と「~は~を…たいです」
テキストには「私は 寿司を(が)食べたいです」とあります。これは、本来「が」であるが、「を」ということの方が多い、ということです。ですから「を」を標準として教え「が」でもよいと教えるべきだと思いますが、教える側の知識として「が」に置き換えられないケースも覚えておきたいものです。
「を」を「が」に置き換えられない三つのケース
- 私は 空(〇を/✕が)飛びたい。〔通過場所の「を」〕
- 美味しいコーヒー(〇を/✕が)たくさん飲みたい。〔動詞との間に多要素挿入〕
- もっと話(〇を/✕が)していたい。〔動詞が「~ている」の形〕
(初級を教える人のための日本語文法ハンドブックから引用)
〔参考〕「~がる」の用法
「~がる」の使い方
「うれしい」「痛い」「ほしい」などの感情は本人つまり当事者だけが感じる心の動きです。その感情を当事者以外、つまり第三者が表現する時は「~がる」をつけて「うれしがる」「痛がる」「ほしがる」とするのが原則です。
- 私はうれしい。
- あなたがうれしがる。
- 彼がうれしがる。
上記をもう少し細かく考えてみましょう。第三者というのは、「当事者でない人」ということですから具体的には「二人称」と「三人称」のことです。まずは第三者と三人称を混同しないようにしてください。
当事者 | 私 | 一人称 |
第三者 | あなた | 二人称 |
彼、彼女、それ等 | 三人称 |
この前提に立って「~がる」の用法を見直してみると、かなり例外が多いことに気づきます。
「~がる」用法の例外
私…「がる」の例
まずは一人称「私」の場合
- 私は子どものころ、注射をこわがってました。
- 私は子どものころ、注射がこわかったです。
これはどちらも言えそうです。むしろ「こわがってました」といった方が真実味が増すような気がします。
この言い方が成り立つのは、子どもの頃の私というのは、今とは別人格の疑似的な「第三者」といして表現しているということでしょうか。
今は全然こわくない私がいるのに対し、子どものころの今と全く違う自分は「こわがる」のだと表現することでリアルさが表現できるのです。
あなた…「がる」の例
二人称での例外はけっこう多いかもしれません。
- (あなたは)なぜゲームがおもしろいのですか?
- (あなたは)なぜゲームをおもしろがるのですか?
- (あなたは)なぜ焼き肉が食べたいのですか?
- (あなたは)なぜ焼き肉を食べたがるのですか?
上の二例はともに「~がる」をつけた方がやや不自然にも感じられます。
二つの例は相手(あなた)が最初の例では「ゲームがおもしろい」、二番目の例では「焼き肉が食べたい」という感情、希望を確実な情報と認識したうえで発話しています。そういうケースでは「~がる」をつけない方が自然に聞こえるということです。つまり、
第三者…「×がる」を使わない例
例えば物語を語る場合、
「おじいさんは山へ柴刈りに行きました。柴で手に怪我しました。とても痛かったです。おばあさんは川で拾った桃を食べました。とてもおいしかった。おじいさんのことが気の毒でした。」
上の例では「痛がった」「おいしがった」「気の毒がった」にはなりません。
これは物語の語り手(作者)はいわば「神(万能者)の目」で第三者である「おじいさん、おばあさん」を見ているので「推量」ではなく第三者の感情、願望を完全にわかっているから、「がる」を使う必要がないということができるでしょう。
以上、「~がる」を単純に「第三者の願望、希望=がる」とだけ覚えてしまうと少し都合の悪いことがあるので注意が必要です。
新明解国語辞典の「がる」定義
国語辞典の中では新明解国語辞典の説明がなかなか秀逸なのでご紹介しておきましょう。
がる〔接尾語〕
情意・感覚などを表す形容詞・形容動詞の語幹について動詞化し、他者から見て、そのような情感・感覚をいだいていると判断されるようなことを言動や表情・態度に表すことをいう。
新明解国語辞典第八版
第三者からその情感・感覚について「ほのめかし」がある場合という意味合いになるでしょうか。話者の立場からはその「ほのめかし」から「推量」して発話するということになるのではないでしょうか。
フランスへ料理を習いに行きます。
第13課のもう一つの重要導入次項は、動作の目的を表す「に」です。「に」は動詞マス形、名詞につきます。使える動詞は限られますが、便利で使いやすい言い方です。
- 子供と神戸へ船を見に行きます。
- 京都へ遊びに行きます。
- 京都へ日本料理を食べに行きます。
- 日本へ美術の勉強に来ました。
- 北海道へスキーに行きました。
みんなの日本語 ここまでの「に」「で」の用法
助詞、とくに「に」と「で」は用法が多く学習者を悩ませます。とくに「に」「で」は今後も他の用法がでてくるので、このあたりで既出の「に」「で」について思い出させるのもいいです。
第13課までの「に」の用法
第4課 | 時間を表す | 私は毎日6時に起きます。 |
第7課 | 起点と着点(授受動詞) | 私は木村さんに花をあげます。木村さんは私に花をもらいます。 |
第10課 | 存在場所 | あそこにコンビニがあります。 |
第13課 | 動作の目的 | 私はフランスに料理を習いに行きます。 |
第13課までの「で」の用法
第5課 | (交通)手段 | 私はタクシーでうちへ帰ります。 |
第6課 | 動作の場所 | 私は駅で新聞を買います。 |
第7課 | 手段 | はしでご飯を食べます。日本語でレポートを書きます。 |
第12課 | 範囲 | 1年で夏がいちばん好きです。 |
以上です。
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