【語源】音楽(雅楽)由来の日本語

かわいい五人囃子

 日本の昔の音楽、雅楽(ががく)に由来する日本語について調べました。

打ち合わせ

打ち合わせは簡単な会議のようなもの。「出張の前に上司と打ち合わせた。」
 西洋音楽のオーケストラのように、雅楽でもいろいろな和楽器を合わせて合奏します。合奏の前に音を合わせたりすることを「打ち合わせ」と言ったようです。
打ち合わせをする

打ち合わせをする

 「打ち合わせ」は和語、同じような意味の「ミーティング」は外来語、そして「会議」は漢語ですね。私が現役時代は会社の中で「会議」「ミーティング」「打ち合わせ」をある程度使い分けていました。「会議」は社長の出るような重要なもの、「ミーティング」は部署ごとでやる小規模の会議、「打ち合わせ」は必要に応じ適宜行うもの、といった感じでした。
 和語、外来語、漢語でニュアンスが異なる代表的な言葉を、参考までに以下挙げておきます。
和語打ち合わせきまり宿暮らし食べ物屋
外来語ミーティングルールホテルライフレストラン
漢語会議規則旅館生活食堂

三拍子そろう

三つの好条件を備える。「彼は、投げる・走る・打つの三拍子揃った名野球選手だ。」
三拍子

三拍子揃う


 オーケストラでなく三重奏、四重奏のようなものになるでしょうか。小鼓(こつづみ)、大鼓(おおかわ)、太鼓の三種の楽器の音合わせ(拍子をとる)を「三拍子」といい、これがぴったり合えば「三拍子揃う」(条件が整う)ことになります。
 ちなみに3月3日桃の節句、ひな祭りの雛人形の「五人囃子(ごにんばやし)」はこの3人に「笛」「謡(うたい)」の二人が加わった五人なのです。
五人囃子(ごにんばやし))

五人囃子(ごにんばやし))

かん高い(声)、おつ

  • 長期の隔離に耐えかねて、マンションの窓からかん高い声で叫ぶ女性もいた。
  • 水栽培して自分で育てたネギを入れたみそ汁はなかなかおつな味がした。

 日本の音楽では、通常の二倍音以上の高い方の音を甲(かん)、低い音程を乙(おつ)と呼ぶそうです。雅楽の場合、高い方はちょっと耳障りな感じもあるのか「かん高い声」といえばちょっとうるさい感じ。逆に乙の音は渋みのある独特の気分をかもし出すことから「おつ」と言えば「ちょっと普通ではないおもしろみのある」ものを表現する時に使うようになりました。

メリハリをつける

勉強する時は勉強する、遊ぶ時は遊ぶ。メリハリをつけた生活が大切だ。
笙(しょう)

笙(しょう)


 笛などの管楽器の音を微調整して低くすることを「滅る(める)」、高くすることを「甲る(かる)」、低められた音を「メリ音」、高められた音を「カリ音」と言います。合わせると「メリカリ」です。
琵琶(びわ)

琵琶(びわ)

 弦楽器の場合は、音を高くすることを弦を張ることから「張る(はる)」と言うように変わり「ハリ音」、合わせて「メリハリ」となります。
 つまり「メリハリ」は弦楽器の弦が「緩み張る」ということを示すことから「メリハリをつける」は、物事の強弱をはっきりさせることの意味で使うようになりました。
「メルカリ」というフリマサービスの会社があってよく似ていますが、こちらはラテン語の「商いする」との意味の「mercari」に由来しているそうです。

ろれつが回らない

彼は飲み過ぎてろれつが回らなくなり、何を言ってるのか誰もわからなかった。
京都大原呂川と律川

京都大原呂川と律川


 「呂律(ろれつ)」は日本の音階で「呂の音」「律の音」とうのがあるのですが、全体の調子を表すこともできます。「長調」と「短調」の違いのようなものと考えてもいいかもしれません。
 「声明(しょうみょう)」というお経(宗教音楽)の中でこの呂と律がうまくおり合わさって良い音ができあがるので、その組み合わせがよくないことを「呂律が回らない」といい、そこから「うまくしゃべれない」意味になったと考えられています。
 比叡山の麓、京都大原の里は天台宗の天台声明の本山として知られており、大原の三千院を囲むように流れる小さな川には「呂川」「律川」という粋な名前がつけられています。

図に乗る(調子に乗る)

彼女はちょっとほめるとすぐ図に乗るから困り者だ

 「呂律をうまく回す」つまり転調をうまくやることが声明(しょうみょう)では大切です。高度なもので転調の図表というものをもとに行われ、まちがいなく行われると「図に乗った」と言われたといいます。

声明(しょうみょう)

声明(しょうみょう)

 ここから、もともとは物事がうまくいくことという良い意味で使われましたが、現在では図に乗る、調子に乗る共に「いい気になって勢いづく」「つけあがる」という悪い意味で用いられます。

派手(はで)

華やかで人目を引く。「ハワイで買ったお土産のアロハシャツは派手すぎて着れない」
三味線(しゃみせん)

三味線(しゃみせん)


 三味線の演奏曲がルーツです。伝統的な曲を「本来の手」という意味で「本手」と言うのに対し、新様式の一連の曲を「破手(端手)」と言いました。「型を破った手、異端の手」という意味です。
 「破手」はテンポの変化も大きくにぎやかな演奏が多かったことから、音楽以外でも目新しく目立つものを「はで(派手)」と呼ぶようになりました。
 

ギョッとする

「身分証を落としてしまったのではないかとギョッとした」

 最後は、突然の予期しないことにとても驚く様子を表す「ギョッとする」。オノマトペかと思いきや意外なルーツがあるという説がありました。

 これについては雅楽ルーツではなく、中国の楽器に由来するというものです。その名も「敔(ギョ)」という古代の楽器だそうです。

敔(ぎょ)

敔(ぎょ)

 伏した虎のような動物の形をしており、竹で背中の刻みをこすって音を出します。楽器というより音を出すことによって音楽をストップする合図をするためのものだったようです。

 オーケストラのシンバルの音のようなものですから、聞いている人は、さぞギョッとしたことでしょうね。

(以上、新明解語源辞典 三省堂、ぷらり日本全国「語源遺産」の旅 わぐりたかし著、新版日本語「語源」辞典 学研、などを参考にさせていただきました。)

 

 

 

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