読解「香住から白兎海岸へ」阿部昭Ⅺ

山陰の松葉ガニ

「日語総合教程」第六冊 第9課「香住から白兎海岸へ」阿部昭 を読みます。
前回(こちら)の続き、今回が最終回です。

 以下は余談――
 雪がちらつく頃がシュンだという山陰の名物松葉ガニ、やや時季外れだったが、東京から行ったわれわれにはやはり珍しい。折角だからというので、帰途鳥取駅で一匹ずつ一番大きな奴を買い込む。籠にドライアイスを入れてくれたが、みそは保証しかねるという。

 こういう時、旅慣れた男というのは頭が働くもので、暖房のきいた客席に持ち込むと傷みも早いから、グリーン車の車掌専務室の横にある戸棚(?)にカニを預かってもらおう、とM君が言い出した。
 車掌さんをつかまえて交渉する。相手は微笑しながら聞いていたが、
「実はカニはお預かりしないことになっているんです」
 と、やんわり断られてしまった。

 理由を聞けばもっともな話で、われわれも引き下がらざるを得なかった。――以前やはり乗客のカニを何人分か、親切心から預かったことがあったが、先に降りた客が他の客の大きなカニを持って行ってしまったので、車掌はその差額を弁償させられた。それ以来、カニだけは預からない方針であるという。
「最近はカニも高価ですからね」
 と車掌さんは慨嘆して、
「それに、あのロッカーはカニを入れるところではないんで」
 そう言って一礼して行ってしまった。

 さいわい、山陰本線も新幹線もさして暖房が利いていなかったから、われわれは少々寒かったが、カニにはよかった。カニ一匹無事に東京へ運ぶ苦労からいっても、日本海はやはり遠い海のようである。

(『現代日本紀行文学全集』補巻三 ほるぷ出版より 一部削除)

以下は余談――…

以下は余談――
以下是题外话。
・余談(よだん):本筋からそれた話
・(例)「余談はさておき、本題に戻りましょう」
雪がちらつく頃がシュンだという山陰の名物松葉ガニ、やや時季外れだったが、東京から行ったわれわれにはやはり珍しい。
据说雪花轻飘时是吃山阴特产松叶蟹的最好时节。虽然有些过季,但对于来自东京的我们来说还是很稀罕的。
・シュン(旬):野菜・果物・魚介類など、出盛りで最も味の良い時期のこと。
・(例)鰹(かつお)は今が旬だ。
折角だからというので、帰途鳥取駅で一匹ずつ一番大きな奴を買い込む。
因为很难得,所以在归途鸟取车站上各自买了一只最大个的。
・買い込む:単に「買う」ということに加え、①大量に買う、②自分の蓄えにするというニュアンスを伴います。ここでは「自分のために」という意味を表現しているようです。
籠にドライアイスを入れてくれたが、みそは保証しかねるという。

虽然在笼里放了干冰,可据说蟹黄还是很难保证质量。

こういう時、旅慣れた男というのは…

こういう時、旅慣れた男というのは頭が働くもので、暖房のきいた客席に持ち込むと傷みも早いから、グリーン車の車掌専務室の横にある戸棚(?)にカニを預かってもらおう、とM君が言い出した。
这种时候,出惯门的男人脑子快。因为带到暖气很热的乘客席的话损伤会快。请求把蟹存放到一等车的乘务室旁边的柜子里吧,M君说道。
こういう時、~もので…:「この時、頭が働いて…」という言い方との違いに注意。「こういう時」=「このような状況下では」、「もので」≒「というもので」、となりより”一般化”したニュアンスになります。
 車掌さんをつかまえて交渉する。相手は微笑しながら聞いていたが、
「実はカニはお預かりしないことになっているんです」
 と、やんわり断られてしまった。
拦住乘务员进行了交涉。对方微笑着听我们说完,委婉地拒绝道:“实际上我们有规定不得保管螃蟹。”

・つかまえる(捕まえる):①逃げようとするものをしっかりと取り押さえる(例)「警察が犯人を捕まえる」→②目的とする人や乗り物をとらえる。(例)「タクシーを捕まえて飛び乗る」「店員が客をつかまえて離さない」
・やんわり:穏やかに。(例)「やんわりとたしなめる」「やんわりと断る」

理由を聞けばもっともな話で、…

理由を聞けばもっともな話で、われわれも引き下がらざるを得なかった。
听了理由也无懈可击,我们也只得后退了。
・引き下がる:「その場から退く」→「自分の主張などを取り下げる、譲歩する」
――以前やはり乗客のカニを何人分か、親切心から預かったことがあったが、先に降りた客が他の客の大きなカニを持って行ってしまったので、車掌はその差額を弁償させられた。それ以来、カニだけは預からない方針であるという。

–以前曾经热心肠地保管过几个乘客的螃蟹,但先下车的乘客把其他乘客的大螃蟹拿了去。列车员被要求赔了差额。那以后就制定了只是螃蟹不保管的制度。

「最近はカニも高価ですからね」
 と車掌さんは慨嘆して、
「それに、あのロッカーはカニを入れるところではないんで」
 そう言って一礼して行ってしまった。
“最近螃蟹也是很贵的呀
乘务员感叹道。
“并且,那柜子也不是放螃蟹的地方”这么说道行礼后走掉了。

さいわい、山陰本線も新幹線も…

さいわい、山陰本線も新幹線もさして暖房が利いていなかったから、われわれは少々寒かったが、カニにはよかった。
幸好山阴本线和新干线的暖气都不是太热,我们虽然稍稍有些冷,但对螃蟹挺好。
・われわれ、~ カニに~:対比の「は」です。
スーパーはくと号(2026年)

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カニ一匹無事に東京へ運ぶ苦労からいっても、日本海はやはり遠い海のようである。
从把一只螃蟹平安运到东京的辛苦来说,日本海果然是遥远的海啊。

 

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