前回( → こちら )の続きです。
雨が降ると、捨てた鉱石の滓から毒が染み出て、近くを流れる渡良瀬川は青白く濁り、何万匹もの魚が白い腹を見せて浮き上がる。その近くの畑に植えた作物は、根から腐って枯れてしまう。そして一八八七年(明治二十年)ごろからは、渡良瀬川沿岸一帯の村々の田畑が不作となり、農民たちは貧苦の底に沈むようになったのだった。
一八四一年(天保十二年)十一月三日、今の栃木県佐野市に生まれた田中正造は、元の名を兼三郎といったが、二十八歳のとき、
「人間にとって一番大切なのは、正しく生きることだ。人生五十年とすれば、わたしは、もうその半ばを過ぎている。せめてこれから先は、正義を貫いて生きたいものだ。」と考えて、自ら「正造」と改名した。
そして、昼間学校へ通えない青少年のために夜学会を開いたり、「栃木新聞」という新聞を出して、民衆の権利を主張し、郷土の人々の役に立つ記事を載せたりした。しかし、正造が正しいと信じることは、なかなか世の中へ広まっていかない。そこで正造は、一八八〇年(明治十三年)には栃木県会議員に、一八九〇年(明治二十三年)には衆議院議員になって、自分の考えを実際の政治の上に生かそうとしていたのだった。
そういう正造だから、今、足尾銅山の鉱毒に苦しむ農民たちを見て、黙っていることはできない。彼は、農民の代表として、「山から銅を採って、日本の国を豊かにするのは、確かに大切なことでありましょう。だが、そのために多くの農民を犠牲にすることは、絶対に許されませぬ。」と訴え、鉱毒問題と真剣に取り組み始めたのである。
雨が降ると、捨てた鉱石の滓から毒が染み出て
語彙
対義語、反義語、和語・漢語ペアなどを提示して語彙力アップにつなげます。
◆染み出る ⇔ 染み込む
◆濁る ⇔ 澄む(すむ)
◆貫く = 貫通する
◆記事を載せる = 記事を掲載する
◆銅を採る ⇔ 銅を採掘する
国字
日本人が作った漢字というものがあります。
人間にとって一番大切なのは、正しく生きること
正義を貫いて行きたいものだ
「ものだ」については「学生は勉強するものだ」のように「理想・本質」を表します。詳細はこの段階では触れなくてもいいかもしれません。
「ものだ」「ことだ」「わけだ」
難しいところは「四捨五入」して、できるだけ三つの言い方をまとめたのが以下の記事です。練習問題から入っていますので、こちらの方が実用的でわかりやすいかもしれません。
続きます → こちら
コメント