「もどかしい」と「はがゆい」の違いについて考えましょう。
「もどかしい」「はがゆい」
「もどかしい」「はがゆい」はともに、思い通りにならず、いらいらする状態であることは共通です。
- 言いたいことを、うまく言葉にできない自分が(〇もどかしい/〇はがゆい)。
- チャンスがいくらでもあるのに、一歩を踏み出せないのは(〇もどかしい/〇はがゆい)。
- 彼の進め方は慎重すぎて私には(〇もどかしく/〇はがゆく)感じられる。
「もどかしい」しか使えない文型「~ももどかしく」
「~ももどかしく」の形で「次の行動に移りたくてたまらない」ことを表す以下のような例は「~もはがゆく」には置き換えられません。
- 彼女は封を切るのも(〇もどかしく/✕はがゆく)、むさぼるように手紙を読んだ。
- 彼女は上着を着るのも(〇もどかしく/✕はがゆく)、ドアを開けて出ていった。
- ごちそうさまと言うのも(〇もどかしく/✕はがゆく)、出ていった。
「もどかしい」「はがゆい」語源から見た違い
文型的な制約を受けない時でも「もどかしい」の方が好ましい文、「はがゆい」の方が好ましい文があるのも事実です。この「もどかしい」「はがゆい」の微妙な差を、語源にさかのぼって考えてみましょう。
「もどかしい」=「擬く(もどく)」の形容詞
「もどかしい」の語源は「擬く(もどく)」の形容詞「擬かしい」だと言われています。「擬く」は「非難すべき様子である」という意味。これが「意にそぐわない様子だ」→「いらだたしい」と意味が変わっていったようです。
「はがゆい」=「歯痒い」
「はがゆい」は漢字で書けば「歯痒い」。「歯はいくら痒くてもかくことはできない」→「不可能である(なすすべがない)」→「いらだたしい」という意味になりました。
つまり「もどかしい」は「気に入らない」から「イライラ」、「はがゆい」は「どうしようもない」から「イライラ」するというところから来ているのでそれはある程度現代の用法に影響していると考えられます。
現代用法としては「もどかしい」「はがゆい」共に話者が想定するより時間的に「遅い!」時の感情を表しますが、「もどかしい」は「遅さが気に入らない」から「速く速く!!」といら立つ感覚であるのに対し、「はがゆい」は「遅いが自分ではどうしようもない」からいら立つという感覚になります。
「もどかしい」「はがゆい」の微妙な違い(イメージ図)
「もどかしい」:「遅い!」→「速く速く!!」とイライラ
「はがゆい」 :「遅い!」→「どうしようもない」からイライラ
「はがゆい」 :「遅い!」→「どうしようもない」からイライラ

「もどかしい」「はがゆい」概念図
「もどかしい」「はがゆい」の典型的例文
以下に「もどかしい」の方が適した例、「はがゆい」の方が適した例を示します。
- 電車が遅れていて、急いでいるのにホームで待つしかないのが本当にもどかしい。
- 老眼が進んで、辞書を引くたびに眼鏡をかけなければならないのがもどかしい。
- 「もどかしい」は、自分の行動が制限されていて「速く速く!」と思いつつ、思い通りにいかない場面でよく使われます。
- 子どもが一生懸命練習しているのに結果が出ないのを見るのは、本当にはがゆい。
- 「はがゆい」は、他人の努力や状況に対して、自分の力ではなんともならないので、同情やもどかしさを感じるときにぴったり。
以上、使い方の分かる類語例解辞典(小学館)、新明解語源辞典(三省堂)などを参考にしました。
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