常熟生活のスタート
常熟での生活が始まった。仕事を離れていた期間は1年以上と長かった。何よりも自分以外全て中国人という環境は初めてだった。自分に何らかの注文をつけてくるべき、本社社長は、現地管理については好きなようにやってくださいとのことであった。責任は重い。しかし、不思議とプレッシャーは感じなかった。好きなようにやろうとわくわくしていた。
管理者として自分が信じる原理原則を貫けば、それなりの仕事ができるだろうと自信があった。自信さえあれば、あとは毎日がゲーム感覚であった。ただ、アクションを急いだ。以前の会社ではよく、新しい部署に異動したら、その部署のトップになる者は、三日で方針を出し、三か月でなんらかの結果を出せ、と言われた。これは真実だと思う。それ以上待たせれば、まず下の者がついてこない。
出勤初日の挨拶
初日の総経理就任あいさつは、事務所の大卒幹部メンバーの前で自己紹介した。方針というところまでいかないが簡単な自己紹介にそえて次のように加えた。しっかりと下書きをしていたのがパソコンの中に残っていたのでご紹介する。
日本の会社で約30年働いてきた者として、皆さんにお伝えしておきたいことがあります。私たち日本人の「仕事」に対する考え方は、他の国の人々とは少し違います。その考え方を、皆さんにも参考にしていただけたらと思います。
まず、私は皆さんに「仕事の中に楽しさを見つけてほしい」と思っています。人生は長くありません。そして、その限られた人生の中で、私たちは約半分の時間を仕事に費やしています。もし、その仕事の時間がすべて「苦しいだけ」のものだとしたら、私たちは人生の半分を諦めてしまっているようなものです。もちろん、仕事が必ずしも楽しいとは限りません。大変なことも多いです。でも、その大変さから逃げずに、正面から向き合って取り組み、積極的に働くことで、その中に「楽しさ」や「やりがい」を見つけることができるのです。私の仕事に対する考え方です。このことを最初に皆さんに理解していただきたいと思います。
次に、私はこのように少し中国語を話すことができます。だから、もっと皆さんとコミュニケーションを取りたいと思っています。ただ、私の中国語は日本で学んだものなので、時には誤解を招くこともあるかもしれませんが、私はこれからも中国語を頑張って勉強し続けたいと思います。ですので、私に会ったらぜひ積極的にコミュニケーションしていただけたら嬉しいです。
それから、私は日本の工場と中国の工場で合わせて約4年間、品質管理を担当してきた経験があります。つまり、私は「日本式の品質管理」に関しては専門家です。ただし、皆さんに日本式のやり方をそのまま真似してほしいとは思っていません。私から日本式品質管理の良い点を学び、吸収していただけたらと思います。悪いところまで真似しないようにしてください。そうして初めて私たちの会社ということができます。
最後に、会社にとって売上や業績はとても大切です。しかし、それ以上に大切なのは「ここで働く従業員の皆さん」です。私のここでの使命は、第一に皆さんにとって働きやすい環境をつくること、第二にお客様に良い製品を提供すること、結果として会社の業績を向上させること、です。そうすることが、そして最終的には皆さんの待遇の向上、幸せにつながります。
より良い生活、より良い人生を実現するために、一緒に頑張りましょう!
良く言えたものだ。プレッシャーと苦しみの中で仕事に押しつぶされそうになりながら、30年間の過半を過ごしてきた自分こそが、反面教師であった。
原文
同月工員大会の挨拶
事務所部門の20名に加え、工場で働く200名余の行員たちがすべて集まる工員大会は月1回。工員たちのほとんどは内陸の貧しい地方から出稼ぎにやってきた人々である。そういう人にどんな話をするか。けっこう悩んでいたように思う。以下がその概要となる。

誰があなたに給料を払う?
皆さんはわざわざ地方から出てきて、この常熟で働いています。皆さんの多くは国に家族がいて、家族のために頑張っています。1元でもたくさん稼ぐことが皆さんの幸せでしょう。
では、みなさんが稼ぐお金は誰が払っていますか。実は私や会社ではありません。答えを言う前に会社の売り上げと利益についてお話ししましょう。

売り上げは頑張り、利益が給料
ここに示したように、売上とは「商品がお客様に受け入れられた総量」、利益とは「お客様が満足した総量」なのです。売り上げはわかりますね。たくさん作ってたくさん売れればお金になります。ではなぜ利益がお客様の満足の総量になるのでしょう? たとえばあなたがもう着なくなった服を友達に売ることを考えてみましょう。あなたが言います「この服は300元で買いました。3ヶ月着ましたが自分には似合わないの200元で売りましょう。ほとんど新品と一緒ですよ。」 お友達は言います「ほとんど新品なら200元は安いなー。」あなたから服を売ってもらったお友だちは満足します。でも家に帰ってよく見ると破れていたとしまし
ょう。お友達は不満に思い、200元で買ったことを後悔します。この時点で満足度は急激に低下します。友情は壊れ、もう二度とあなたから物を買おうとしなくなります。次回からはあなたとの取引により慎重になり、値段をもっと安くしないと買ってくれなくなるかもしれません。
会社の仕事もこれと同じなのです。私たちはポリ袋を作っていますが、当然これを買ってくれる人がいます。袋を買ってくれる人はお店の人ですが直接袋を使うのは一人一人のお客さんです。私たちの本社は日本の東京なのでお客さんは東京中心です。私は日本の大阪出身ですが、前回日本に帰った時、私たちの作った袋が使われている場所を見てきました。ここで皆さんの作った袋が使われています。実はもうおわかりのことと思いますが、皆さんの給料になるお金はこのお客さんたちが払っているのです。
次の表は、昨年私たちが売った商品のうちクレームとして報告を受けた商品のリストです。底が抜けていたり、印刷が不鮮明であったり、果てには髪の毛が混じっていたりするものです。もちろんわざとやったのではないことはわかっています。しかし、結果的には傷を隠して友達に売った服と同じく、お客さんのクレームにつながり、お客さんの満足度を低下させるものです。
当然、このようなクレームが発生すると、賠償金を支払わなければならなくなると共に、そのあと元の値段で売れなくなってしまうのです。結果利益が少なくなります。ですからお客様の満足度が利益(お金)そのものであり、それこそがみんなの給料なのです。言ってみればあなたの給料はお客様が払っているのです。
みなさんの給料を上げる唯一の方法はお客様の満足度を向上させることです。たくさん作ることは大切です、それに加えてお客さんが満足する商品を作ることはもっと重要です。会社にとって重要なのではなく、あなたにとって大切なことであり、それは故郷であなたを待つ皆さんの大切な家族にとって大切なことなのです。(後略)
字数が多くなってしまった。具体的に何をしたかは次回書くことにする。 (続く)

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