「~てしまう」について考察します。
みんなの日本語初級第29課の用例
「~てしまう」は①「完了」を表す場合、②「話し手の後悔」を表す場合の二通りの意味を示します。日本語の標準テキスト「みんなの日本語」初級第29課で導入される例文を見ると、
①「~てしまう」〔完了〕
- シュミットさんが持って来たワインはみんなで飲んでしまいました。〔例文3〕
- 「いっしょに帰りませんか」「このメールを書いてしまいますからお先にどうぞ」〔例文4〕
- 『源氏物語』は全部読んでしまいました。〔練習A〕
- レポートは今晩書いてしまいます。〔練習A〕
②「~てしまう」〔話者の後悔〕
- 電車に傘を忘れてしまいました。〔文型3〕
- 約束の時間に遅れてしまいました。〔例文5〕
- 財布を落としてしましました。〔練習A〕
- 電話番号を間違えてしまいました。〔練習A〕
- パソコンが壊れてしまいました。〔練習A〕
無意志動詞+てしまう〔=話者の後悔〕?
「~てしまう」が「完了」か「後悔」かの一つの目安は動詞に意志があるかないかということと言われています。
- 一晩でウイスキーを一瓶全部飲んでしまった。〔完了〕
- 妹が冷蔵庫に入れておいたワインを飲んでしまった。〔遺憾〕
- 宿題の『雪国』はもう読んでしまった。〔完了〕
- 少年ジャンプ今週号は読んでしまったのでやることがない。〔遺憾〕
いわゆる「意志動詞」の場合、「完了」を示す時、「遺憾」を示す文脈があるようです。ただ次の例でもわかるように、同じ動詞でも〔遺憾〕の意味になるのは「無意志的な動作」をした場合が多くなります。
- やるべきことはやってしまった。〔完了〕意志的
- とんでもないことをやってしまった。〔遺憾〕無意志的
- あの映画は見てしまった。〔完了〕意志的
- 見てはいけないものを見てしまった。〔遺憾〕無意志的
別の角度で考える
「意志的」「無意志的」という観点でみてしまうと、同じ動詞でも文脈によって変わるのでうまく判別できません。そこで、次のような観点で分類してみるとどうでしょう。
- 〇 半分、食べてしまう。
- 〇 半分、やってしまう。
- ✕ 半分、なくしてしまう。
- ✕ 半分、死んでしまう。
のように、”ごはんは半分食べてしまう”ことは可能ですが、”ケータイを半分なくしてしまう”ことはできないので分類は簡単です。そのような分類をした上で、
「すべてかゼロ」or「途中段階が可能」?
つまり、動詞が「死ぬ」なら「生きている」or「死ぬ」の「すべてかゼロ」かなのに対し、「食べる」という動詞は同じ「食べた」でも「どの程度食べた」か途中段階があるということで、
た形 | 死んだ〔完了・結果〕 | 食べた〔完了?〕 |
〔中間段階〕 | ― | 少し、半分、ほとんど食べた |
~てしまった | 死んでしまった〔後悔〕 | 食べてしまった〔完了〕 |
上表をみてください」。「死ぬ」は「すべてかゼロ」の動詞なので、「死んだ」が「完了・結果」を表すのに対し、「死んでしまった」は「後悔」の念が入り意味的な棲み分けができています。これに対し、「食べた」といってもそれが「どの程度食べたか」はっきりしないので、「死んだ」に相当する「完全に食べた」ことをはっきりと示すには「~てしまう」がその役割を担っているということになります。
- 大切に飼っていた金魚が死んだ。〔結果、客観事実〕
- 大切に飼っていた金魚が死んでしまった。〔後悔、遺憾〕
- 冷蔵庫にあったピザを食べた。〔結果、客観事実〕完食したかどうかは不明
- 冷蔵庫にあったピザを一切れ食べた。
- 冷蔵庫にあったピザを食べてしまった。〔完了〕〔完食〕
「~てしまう」の意味「完了/後悔」の判別

「~てしまう」判別
まとめ
例文をつけてまとめます。

「~てしまう」:「完了」か「後悔」化の判別法
以上、初級を教えるための日本語文法(スリーエーネットワーク社刊)などを参考にまとめました。
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