みんなの日本語(初級1)第26課 の重要ポイントについて解説します。
「~んです」「~んですか」をいつ使うか?
「どうしたんですか?」「そうなんだ~!」などのように、日本人は「普通形+んです」という表現を実によく使います。なぜ多用するのかというのは、「感情を共有したいと思う気持ちを表現できる」のでついつい多用してしまうのです。
関連づけの「~んです」
日本語教育の文法解説では「~んです」「~のです」は「関連づけ」の「んだ、のだ」というふうに説明してあります。つまり「発話」と「状況」を関連づける役割を果たす「んだ」ということなのですが、これだけではちょっとわかりにくいですね。 (「関連づけの”んだ”」については、初級日本語文法ハンドブック 3Mネットワーク、など参照)
最近YouTubeの「ゆる言語学ラジオ#14」で非常にわかりやすい説明をしていただいていたので以下にご紹介します。
「バスが遅れたんです」の含意
遅刻した学生が先生に言います。
上の二つの言い方のうち、より適切な言い方は「バスが遅れたんです」ですね。「バスが遅れました」というと事実を言っているだけで、反省の色が見えないので先生はちょっと怒ってしまうかもしれません。
ここで考えなければならないのは「んだ」を含む表現がなぜ「説明、言い訳」として適切な表現になりうるのかという「原理面」の考察です。
名詞化の「の」
「遅れたんです」の「んです」は「のです」の音便。この「の」は、初級で学ぶ「その本は私のです。」の「の」、つまり「名詞化」の「の」なのです。つまり「バスが遅れたの(ん)」は「バスが遅れたという状態」を表しています。
「です」⇒「であります」(存在文)
次に「バスが遅れたのです」の「です」に移りましょう。「です」は原日本語に立ち返ればもともと「であります」ということ。これは、いわゆる「存在」を示す「机の上にりんごがあります。」の「あります」と同じです。
上記二つを合体させて整理すると「バスが遅れたんです」は
「バスが遅れたという状態(状況)の中に私は存在する(います)。」という意味を表していることになります。
これが「発話」と「状況」を結び付けるということです。わかりやすく図示すると以下のようになるでしょう。
「バスが遅れました」という言い方は、自分に関するさまざまな状況の中の一つが「バスが遅れた」という客観的事実を述べているだけ。これに対し「バスが遅れたんです」と言うと、今話者は「バスが遅れた」という状況の中に「存在」しており、その状況に陥ったことについて話者自身の力ではどうにも仕方がない、というニュアンスが醸し出されます。自分の力ではどうも仕方がない状況にいる ⇒ 自分の責任ではない ⇒ たから許してください
という流れで、自分自身の責任を回避していることになるというわけです。
〔参考〕「~んだ」使用例。ドラえもん「45年後、未来の僕がやって来た。」
いつものように、先生に叱られたり、ジャイアンやスネ夫にからかわれたり、相変わらずののび太君の前に、45年後の自分が現れます。立派なおじさんになった”のび太”は、ドラえもんの「交換ロープ」を使って現在ののび太と「体を交換」します。つまり45年後ののび太は現在の子どもののび太に、今ののび太君は45年後のおじさんになり、それぞれが一日を過ごすという物語です。
内容は実際に見ていただくとして、ここで材料にしたいのは45年後ののび太が未来に帰る時、最後に今ののび太君に言い残す次の言葉です。のび太氏のセリフの中の「~んだ」に着目しましょう。
- 生きることは、そう悪いことではないよ。そりゃあ、時には人と比べて、自分が劣っていると感じて、うつむくときもあるだろう。お金はある方がいいし、偉い人になるのは、素晴らしいことだろう。でも、そうあることだけが、よい人生の答えじゃないと思うんだ。生き方に、優劣や勝敗なんてないはず。よい人生、つまり生きる素晴らしさとは、どういうことなのか。いや、僕にもまだわからないんだけど、ささやかでも精いっぱい生きて、その時その時の自分を、自分で受け入れてゆく。そういうことの中に、ヒントがあると、僕は思えるんだ。ちょっと、難しかったかな。
- よし! 一つだけ教えておこう。君はこれから何度もつまずく。時には、もう起きあがれないほど、苦しい時もあるだろう。しかしだ。そのたびに君は起き上がる。何度も何度も起き上がるんだ。つまずいても、そのたびに起き上がる強さを、君は持っているんだよ。前より、もっともっと強くなろうとする力をね。そして強くなって、もっともっと生きてゆくんだよ。
45年後の自分に話しかける時、どんな気持ちになるでしょうか?
45年前の自分でなくてもいいです。例えば今あなたが20歳なら、15歳の時の自分、8歳の時の自分に言ってあげたいことがあるはずです。そんな気持ちが「僕には思えるんだ」「起き上がるんだ」「君は生きてゆくんだ」という45年後ののび太氏の表現の中に感じることができるのではないでしょうか。
不自然な日本語(例)
学習者の不自然な日本語の中に次のような文があります。
参考文献:「日本語文法学習者によく分かる教え方10の基本」藤田直也著 などを参考にしました。
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