みんなの日本語(初級1)第10課 教案Tips

みんなの日本語初級第10課

みんなの日本語(初級1)第10課のポイントについて考えましょう。

「います」と「あります」の文型導入

第10課の文型は

  • あそこに コンビニが あります。①
  • ロビーに 佐藤さんが います。②
  • 東京ディズニーランドは 千葉県に あります。③
  • 家族は ニューヨークに います。④

です。

  • 〔場所〕〔モノ〕あります。①
  • 〔場所〕〔ヒト〕います。②
  • 〔モノ〕〔場所〕あります。③
  • 〔ヒト〕〔場所〕います。④

まず①②の文型に着目し「います」「あります」の使い分けを解説します。

「います」「あります」の使い分け

確かに

  • 机の上に猫がいます。
  • 机の上に花があります。

ですから、基本は

います:人・動物、あります:モノ・植物

います:人・動物、あります:モノ・植物

でたいていのケースで区別可能です。学生のレベルによってはここで止めてもいいのです。

少し深堀りしておきたい先生のために

が、実際は判断に迷うケースもあるのです。

たとえば

  • お腹の中にビフィズス菌がいます。
  • 机の上に牛肉があります。

 菌やウイルスは動物ではありませんが、生命、つまり意志をもって動く(ように見える)ので「います」。動物でも死んでしまえば意志はなく、自ら動くこともできないので「あります」を使います。

 ですから「います」「あります」の区別はより正確には、

います:有情物、あります:無情物

います:有情物、あります:無情物

 有情物(うじょうぶつ)、無情物(むじょうぶつ)というのは専門用語なのですが、要するに、意志があるかないかで区別するということです。

 では次の例はどう考えればよいでしょう。

  • あ、あそこにタクシーがいるよ!
  • 鈴木さんの乗ったボートはあそこにいる。
  • あそこに誰も乗っていないボートがある。
  • 私には兄弟が(いる/ある)。(どちらもOK)

 人の乗ったタクシーなどの乗り物は、外見上、意志をもって動くことができるように見えるので「いる」を使います。また「兄弟」「家族」などは話者が個々の成員を意識してその存在をいう場合は「いる」、個々の成員を意識せず単に有無を言う場合は「存在文」ではなく「所有文」と見なし「ある」が使われます。

 ですから正確に「います」「あります」を区別する基準は

います:意志をもっている、もっているように見えるもの

います:意志をもっている、もっているように見えるもの

となります。

「います」「あります」の区別まとめ

 以上、視覚的にわかり易いようにまとめると以下のようになります。

「います」「あります」まとめ

「います」「あります」まとめ

  • 部屋に蚊がいます。
  • ホームに電車がいます。
  • 小惑星探査機「はやぶさ」はどこにいるのだろう。
  • 空に太陽があります。
  • あそこに誰も乗っていないボートがあります。
  • 冷蔵庫に豚肉があります。
  • 私には妻が(います/あります)。(存在文/所有文)
  • 同じ学校に兄弟がいます。

 ちなみに、以前日本の小惑星探査機「はやぶさ」が宇宙を飛行中、電波が途切れしばらく行方不明になるという事故がありました。当時は「はやぶさは今どこにいるんだろう?」と日本人はみな心配していたものです。

次に「~は~に(います/あります)」です。

  • 東京ディズニーランドは 千葉県に あります。③
  • 家族は ニューヨークに います。④

~に~が(います/あります)、~は~に(います/あります)の文型

 「〔場所〕に〔主語〕が~」の形は〔場所〕が先に来るという意味では特徴的な文型でした。

 「〔主語〕は〔場所〕に~」の文型は、上の文の〔主語〕をとりたて助詞「は」を使って主題化(取り立てた)した文ということが言えます。

 「あそこにコンビニがあります」の「コンビニ」を取り立てると「コンビニはあそこにあります」となります。(参考までに「あそこ」を主題化すると「あそこにはコンビニがあります」となります。)

「あそこにコンビニがあります」「コンビニはあそこにあります」「あそこにはコンビニがあります」

「あそこにコンビニがあります」「コンビニはあそこにあります」「あそこにはコンビニがあります」

〔参考〕「は」と「が」

 第10課では「います」「あります」の区別と共に「は」による主題化や 主格の「が」、主題の「は」といったところが、隠れた重要ポイントとなります。

 以下、参考までに「は」と「が」の違いについて私が授業で簡単に説明する時の流れをご紹介します。

「主題」と「解説」、「旧情報」と「新情報」

  • 私 は 張です。
  • 鳥 は 空を飛びます。
  • 彼女 は 美しい。

 これらは「主題」のあとに「解説(内容)」が来る形です。「私」について言えば名前は「張」です。「鳥」というものは「空を飛びます」、「彼女」については「美しい」です、ということです。「主題」は話者も聞き手も共に知っている「旧情報」、「解説」は聞き手に知らせたい「新情報」ということもできます。

主題と解説

 話し手の伝えたいこと、言いたいことというのは当然「新情報」になりますね。

言いたいこと後ろ

 つまり「~は…」の形で表現されるものは後ろの「…」の部分が言いたいことになります。

「~は…」は後ろが言いたいこと
次に以下の二つの文を比べましょう。
  • 私は張です。
  • 私が張です。

これらの発話が行われる状況を想像してみると。

  • 「あなたは誰ですか?」「私は張です。」
  • 「張さんは誰ですか?」「私が張です。」

私は張ですと私が張です

「~が…」の形で表現されるものは前の「~」の部分が言いたいことになります。

言いたいことが前

「~が…」は前が言いたいこと
となります。前が言いたいことになるものを難しい言葉で「総記」といいます。「総記」とは「他でもない~が…」、「私こそが張です。」というように「強調」されます。
 以上が基本。次に「~は…」「~が…」の前後ともに新情報、つまり前後ともに言いたいことである場合です。
言いたいこと×2
「新情報」+「新情報」対比は「は」、それ以外は「が」
「言いたいこと」+「言いたいこと」つまり聞き手にとってともに新情報(「新情報」+「新情報」)のケースです。
  • 雨は降るが、雪は降らない。(対比)
  • 雨が降る。(中立叙述)

「対比」はわかりやすいですね。「猫は好き」といえば、他の例えば「犬は嫌い」なのかということを連想させます。二つ対比しなくても別の比較するものを連想するのが「は」の対比用法。

「中立叙述」とはわかりにくいですが「窓から富士山が見える」「高速で事故があった」「蛇口をひねると水が出る」のような客観描写と考えていいでしょう。

以上まとめると、

  • 言いたいことが後ろの時は「は」
  • 言いたいことが前の時は「が」
  • 前後とも言いたいことの時「対比」が「は」、対比でない客観描写は「が」

ということになります。

 

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