「桜が散り始める」と「桜が散り出す」
4月になりました。今年は例年より桜の開花が早く、関西でもすでに満開の時期を過ぎてしまったようです。
動きの開始を表す代表的な形式に「~始める」「~出す」がありますが、
- 桜が散り始める。
- 桜が散りだす。
多くの場合ともに使えるようですが、どんな違いがあるでしょうか?考えてみましょう。
「蜜柑」芥川龍之介から
芥川龍之介の短編「蜜柑」は日本語学習のテキストにもよく採用されている、内容も文章も素晴らしい作品です。(日语综合教程第五册で勉強します、大学3年生レベルですね。)この作品の中では「~始める」と「~だす」が、うまく使い分けられています。
3か所抜き出してみます。(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)
(Ⅰ)…けたたましい日和下駄の音が聞こえ出したと思うと、…私の乗っている二等室の戸ががらりと開いて、十三・四の小娘が一人、慌ただしく中へ入って来た、と同時に一つずしりと揺れて、おもむろに汽車は動き出した。 (Ⅱ)私は一切がくだらなくなって、読みかけた夕刊を抛り出すと、また窓枠に頭を靠せながら、死んだように眼をつぶって下駄の音が、うつらうつらし始めた。 (Ⅲ)小娘の開けようとした硝子戸は、とうとうばたりと下へ落ちた。そうしてその四角な穴の中から、煤を溶かしたようなどす黒い空気が、俄かに息苦しい煙になって、濛々と車内へみなぎり出した。 『蜜柑』(芥川龍之介)から
上の引用の中で黄色の「抛り出す」は文字通り「外へ出す」意味なのでここで扱う「開始相」を表す「~出す」ではありません。
~だす:急激な開始、~始める:緩慢な開始
- ~出す:下駄の音が聞こえ出した、汽車は動き出した、(煙が)みなぎり出した
- ~始める:うつらうつらし始めた
以下のような使い分けがなされているといえそうです。
~だす | 急激な動作の開始 |
~始める | 緩慢な動作の開始 |
以下のような例を比較するともっとよく分かります。
- 〔急に/突然に/だしぬけに〕雨が降り出した。(△降り始めた)
- 〔夜になってから/ようやく〕雪が舞い始めた。(×舞い出した)
- 彼はいきなり走り出した。(△走り始めた)
- ダイエットのため明日から走り始めよう。(×走り出そう)
意志動詞ともなじむ「~始める」
もう一つの違いは「~始める」は以下の例のような意志動詞の場合も使えるということです。
- そろそろ勉強し始めようか。(×勉強し出そうか)
- 6時から料理を作り始めよう。(×作り出そう)
以上まとめると、
~だす | 急激な動作の開始 | |
~始める | 緩慢な動作の開始 | 意志動詞OK |
となります。
〔以上、日本語の難問 宮腰賢(宝島新書)、中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック(3Aネットワーク)などを参考にさせていただきました〕
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