「~がる」の用法
「うれしい」「痛い」「ほしい」などの感情は本人つまり当事者だけが感じる心の動きです。その感情を当事者以外、つまり第三者が表現する時は「~がる」をつけて「うれしがる」「痛がる」「ほしがる」とするのが原則です。
- 私はうれしい。
- あなたがうれしがる。
- 彼がうれしがる。
学習者の皆さんは上のような説明を受けたと思います。
第三者の感情、願望
第三者というのは、「当事者でない人」ということですから具体的には「二人称」と「三人称」のことです。まずは第三者と三人称を混同しないようにしてください。
当事者 | 私 | 一人称 |
第三者 | あなた | 二人称 |
彼、彼女、それ等 | 三人称 |
この前提に立って「~がる」の用法を見直してみると、かなり例外が多いことに気づきます。
「~がる」用法の例外
私…「がる」の例
まずは一人称「私」の場合
- 私は子どものころ、注射をこわがってました。
- 私は子どものころ、注射がこわかったです。
これはどちらも言えそうです。むしろ「こわがってました」といった方が真実味が増すような気がします。
この言い方が成り立つのは、子どもの頃の私というのは、今とは別人格の疑似的な「第三者」といして表現しているということでしょうか。
今は全然こわくない私がいるのに対し、子どものころの今と全く違う自分は「こわがる」のだと表現することでリアルさが表現できるのです。
あなた…「がる」の例
二人称での例外はけっこう多いかもしれません。
- (あなたは)なぜゲームがおもしろいのですか?
- (あなたは)なぜゲームをおもしろがるのですか?
- (あなたは)なぜ焼き肉が食べたいのですか?
- (あなたは)なぜ焼き肉を食べたがるのですか?
上の二例はともに「~がる」をつけた方がやや不自然にも感じられます。
二つの例は相手(あなた)が最初の例では「ゲームがおもしろい」、二番目の例では「焼き肉が食べたい」という感情、希望を確実な情報と認識したうえで発話しています。そういうケースでは「~がる」をつけない方が自然に聞こえるということです。つまり、
第三者…「×がる」を使わない例
例えば物語を語る場合、
「おじいさんは山へ柴刈りに行きました。柴で手に怪我しました。とても痛かったです。おばあさんは川で拾った桃を食べました。とてもおいしかった。おじいさんのことが気の毒でした。」
上の例では「痛がった」「おいしがった」「気の毒がった」にはなりません。
これは物語の語り手(作者)はいわば「神(万能者)の目」で第三者である「おじいさん、おばあさん」を見ているので「推量」ではなく第三者の感情、願望を完全にわかっているから、「がる」を使う必要がないということができるでしょう。
以上、「~がる」を単純に「第三者の願望、希望=がる」とだけ覚えてしまうと少し都合の悪いことがあるので注意が必要です。
新明解国語辞典の「がる」定義
国語辞典の中では新明解国語辞典の説明がなかなか秀逸なのでご紹介しておきましょう。
がる〔接尾語〕
情意・感覚などを表す形容詞・形容動詞の語幹について動詞化し、他者から見て、そのような情感・感覚をいだいていると判断されるようなことを言動や表情・態度に表すことをいう。
新明解国語辞典第八版
第三者からその情感・感覚について「ほのめかし」がある場合という意味合いになるでしょうか。話者の立場からはその「ほのめかし」から「推量」して発話するということになるのではないでしょうか。
以上「初級を教える人のための日本語文法ハンドブック」(3A)、「なにげにてごわい日本語」(すばる舎)などを参考にさせていただきました。
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