「~させていただきます」というのは比較的新しい謙譲表現の一種です。日本語の教科書には出てきませんが、実際にはよく使われる(特に関西!)ので、使い方を整理しておきます。
以下のように使います。
- それでは、発表させていただきます。
- 今日のコンサートは中止させていただきます。
- 勝手ながら本日はお休みさせていただきます。
- 今日はお先に失礼させていただきます。
- 店員はマスクを着用させていただいております。
以上は適切と思われる使い方ですが、そうでない場合もあるのです。順々に考えてみましょう。
Ⅰ.あえて使う必要がない場合
「お手伝いします」「(お荷物を)お持ちします」など、「お/ご~します(いたします)」の形式の謙譲表現が「~させていただきます」に相当する従来の表現方式です。
ここで使われる動詞「手伝う」「(荷物を)持つ」「案内する」などは、明らかに相手の助けになる動作です。
そういう動作をする際に「お/ご~します」あるいは「お/ご~いたします」という形式が成立します。この時も「手伝わせていただく」「持たせていただく」は言えることは言えますが、実際は少し嫌味な感じがするので、あえて使わない方が無難です。
Ⅱ.使った方がいい場合
冒頭で例に出した「発表する」「中止する」などの動詞は相手を助ける動作ではありませんが「発表を聞いてもらう」とか「中止によって迷惑する」など「相手に何らかの影響を及ぼしてしまう動作」です。
実はこの時「お/ご~します」という謙譲表現は使えないのです。「ご発表します」「ご中止します」という日本語は成立しません。
「~させていただく」はこういう状況で、相手に対する配慮を示す表現として使われるようになりました。
「発表させていただく」「中止させていただく」「お先に失礼させていただく」等は推奨される言い方ということになるでしょう。
Ⅲ.使えない場合
相手になんら影響を及ぼさない動詞も多いので、そういった動詞に「させていただきます」をつけると誤用になります。
「×ちょっと感動させていただきました」
Ⅳ.まとめ
見やすくまとめると以下のようになります。
「~させていただく」の起源
1990年代に上方芸人が多用して一気に広まったという説があります。
「お仕事さしてもうてます。」(=「お仕事させていただいております。」)という表現をテレビでよく聞いた記憶があります。
もともとは鎌倉仏教である親鸞の興した浄土真宗の「絶対他力」の思想の現われとして、阿弥陀如来の「おかげ」で「生かされている」「生かせていただいている」という意味合いで人々がよく口にしていたのが広まったといいます。
司馬遼太郎さん「街道をゆく」近江の巻にあります。
この語法は上方生まれである。それも、浄土真宗(真宗とか門徒とか本願寺とか言うほうがわかりやすいかもしれない)の教義から出たもので、他宗にはない思想であり、言いまわしである。これは真宗の、われわれはすべて阿弥陀如来(つまり他力)によって生かしていただいているという、絶対他力の考え方の現われで、何事も阿弥陀様のおかげであるからこそ、そのおかげに感謝して「息災に過ごさせていただいております」などと使う。ところが、近江商人は近江門徒であったから、京大坂や江戸へ出て商いをする場合、ついこの語法が出た。
「かしこまりました。それでは明日、お届けさせていただきます。」
という具合に。これが京大坂に浸透し、江戸に浸透したわけで、東京では特に昭和にはいってから多用された。
『街道をゆく』司馬遼太郎より
実は、私もこの表現が好きで、ついつい多用してしまいます。
あまり使いすぎると、卑屈な感じが出てしまうので注意が必要です。
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