新明解国語辞典と三省堂国語辞典。第八版出そろう!!

新明解vs三国

 新明解に一歩遅れて、三国(サンコク)第八版も発売されたので早速手に入れました。改めて2冊引き比べながら比較してみることにします。

「右」の語釈

 三省堂の小型国語辞典「新明解国語辞典」(新明解)と「三省堂国語辞典」(三国)は日本を代表する小型辞典です。あまり国語辞典になじみのない人に、国語辞典の魅力をご紹介することにします。

 まず手始めに、よく辞書比較で例に出される「右」の語釈を比較してみましょう。

 新明解国語辞典三省堂国語辞典

右

アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示のある側。「明」という字の月が書かれている側と一致。

横に広がるもののうち、一方のがわをさすことば。「一」の字では書き終わりのほう。「り」の字では線の長いほう。

 「新明解」は時計の文字盤、三国は「一」の書き終わりのほう、という説明です。「右」の語釈は各辞書特徴があって、傑作は岩波国語辞典の「今開いている辞書の偶数ページのほう」というもの。

 こういう基本的な言葉の語釈を引き比べるのが国語辞典ファンの遊び方の一つなのです。

「新明解」と「三国」それぞれの特徴

 なぜ三省堂という同一の出版社によく似た二つの小型国語辞典があるのか?その深い深い歴史的理由については別の機会にまとめたいと思います(実はめっちゃ面白い)。

 が、まずはこの二つの辞書のそれぞれの個性についてご説明します。

新明解国語辞典:独特の解釈により、言葉の意味をひたすら深く追求。読者が深く納得し共感できるような語釈。ある種の語の語釈には、共感するためにある程度の人生経験が必要なものもある。
三省堂国語辞典:子供から大人まで、読めば心にストンと落ちる、シンプルな解説。辞書は時代を映す鏡、新しい語も積極的に採用する。反面、使われなくなった語はあっさり切り捨てる。
 説明より例をあげるとわかりやすい。
 たとえば「凡人」という言葉をそれぞれの辞書はどう説明しているでしょうか。

「凡人」(ぼんじん)の語釈

 新明解国語辞典第八版三省堂国語辞典第八版
凡人自らを高める努力を怠ったり、功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人。〔家族の幸せや自分の保身を第一に考える庶民の意にも用いられる。〕ふつうの人。

 新明解、深いですね、そして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終えてしまうのではないかと怯える私は、深く共感してしまうのであります。

 これに対して三国は「ふつうの人」。確かにその通り。万人が納得できます。

「新明解」と「三国」語釈比較

 新明解国語辞典第八版三省堂国語辞典第八版
恋愛特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情を抱き、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。(おたがいに)相手を大切に思い、性的な結びつきも強めたいと思う気持ち。
世の中

社会人として生きる個々の人間が、誰しもそこから逃げることができない宿命を負わされているこの世。一般に、そこには複雑な人間関係がもたらす矛盾とか政治・経済の動きによる変化とかが見られ、許容しうる面と、怒り・失望をいだかせる面とが混在するととらえられる。

人々がたがいにかかわりを持って住んでいる所。世間。社会。

動物園
動物園捕らえてきた動物を、人工的環境と規則的な給餌とにより野生から遊離し、動く標本として一般に見せる、啓蒙を兼ねた娯楽設備。いろいろな動物を飼って多くの人に見せる(または研究する)所。

 新明解は実に含蓄のある言葉であり、辞書の語釈にとどまらず時に文明批評的な記述すらあるのです。辞書の説明がこんなに主観的なものでいいのだろうかと思ってしまうこともあるのですが、これはこれでいいのです。

 特に「恋愛」の語釈は版を追ってその変化をたどると面白いのですが、これも別の機会にまとめたいと思います。

「三国」第八版に採用された新語から

 三国の語釈はずいぶんあっさりしてる、その分わかりやすく心にストンと落ちる名語釈が多い。そして「三国」の最大の特徴は「新語の積極的な採用」である。

 第八版には4500新しい見出し語があるそうですが、いくつかご紹介します。

ガテン系、ポチる

遠慮のかたまり皿に盛ったものを何人かで食べていとき、たまたま最後まで残った一個。おたがいに食べるのを遠慮する。〔関西でよく使う言い方〕
ガテン系土木・建築など、肉体労働をする職業(の人)〔求人誌の名前から〕
ポチるインターネットの通信販売で(マウスをクリックして)買う。ポチする。
黒歴史人に知られては困る、または恥ずかしい、消したい過去。〔1999年、テレビアニメ ガンダム〕から出たことば〕
ほぼほぼ「ほぼ」をくり返して、きわめて近いという気持ちを強めた言い方。「ほぼほぼ同じ」〔2010年代に広まったことば〕
デジタルトランスフォーメーションいろいろなものごとがデジタル情報で扱われるようになることで、社会全体が根本から変化すること。DX。
つうか〔俗〕⇒っていうか。「なにこっち見てるの。つうか、なんでここにいるの?」

デジタルトランスフォーメーション

変化に敏感、そして変化に寛容な「三国」

 言葉は変化します。「ら抜き言葉」などもそうですが、日本語を教えていると、何を正として教えればいいか迷うことがよくあるのです。そんな教師の悩みも「三国」は答えてくれます。

 たとえば

  • 「お伺いします」「お伺いいたします」は二重敬語で間違いではないのか?
  • 「~てくださいます」「~ていただきます」はどちらがていねいか?
  • 「~させていただきます」は敬語として認知されているのか?

「三国」の回答は以下です。

伺う「問う、尋ねる、聞く、おとずれる」の謙譲語。「先生のお宅に伺う」、「お伺いする」「お伺いいたします」はより謙遜した(丁重な)言い方
くださる「くれる」の尊敬語。「〔相手が〕お送りくださった」と相手の行動を直接的に表現するよりも、「(自分が)お送りいただいた」と自分の行動として表現するほうが、敬語としてこなれている。」
させていただく動詞を「ご…いたします」などの形で謙譲表現にできない場合は、それに代わる表現として便利に使われる。たとえば「案内する」は「ご案内いたします」の形にできるので、ことさら「案内させていただきます」という必要はない。ところが「中止する」は「ご中止いたします」とは言えないので、謙遜やお詫びの気持ちを込めて「中止させていただきます」とも言う。「中止いたします」でいい場合も多い。

 もし無人島に本を持って行くなら?2冊持って行けるなら「新明解国語辞典第八版」と「三省堂国語辞典第八版」の二冊で決まりです。

 もし一冊なら

 私の場合は「三国」かな。

以上です。

 

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