日本のカリスマ的マーケッター
同郷の著名人で森岡毅さんというマーケッターがいる。名前を知らない人でも、USJジャパンの業績を急回復させた人といえば、たいていの日本人は「ああ、あの人ね。」とわかるだろう。兵庫県立伊丹高校から神戸大学経営学部に進み、1996年卒業されている。1995年3回生で阪神淡路大震災を経験されたことになる。
筆者より一回り以上、下の人ではあるが学ぶものが多い。というか、いわゆる“熱く”ビジネスを語ることができるカリスマ的人物で、筆者には、たとえば仮に外面(そとづら)だけでも真似ようとしても真似のできないタイプの人である。
著書の一つ「USJを劇的に変えたたったひとつの考え方」は、マーケティングの基本を、誰にもわかるようにご自身の経験を実例として書かれた良書である。
マーケティングというと、私には関係ないと思われる人がほとんどだろうが、考え方はぜひ学びたい。要は、相手の心の中の真のニーズを掘り起こせ、情熱をもってそれを行えということで、考え方の普遍性は、ビジネスや商売に限らないものだ。
TV番組でカリスマ予備校講師と林修氏と対談された時の録画をYouTubeで見つけたので思わず見入ってしまった。
人生の時間とエネルギーを浪費するな
以下、林修氏によるインタビュー対談から。説得力のある話し方だ。
「あの、世の中って、自分の力でどうしようもないことと、自分の力でどうにかしなくちゃいけないことと、も、大きく分けると二つしかないわけですよ。で、多くの人は自分の力でどうしようもないことに、今おっしゃったように、定数を変数にしようと思って、ものすごい労力をね、叶わない努力と悩みで人生の時間とエネルギーを浪費しちゃうんですよね。で、疲れちゃって自分でコントロールできるところに時間の集中がいかないじゃないですか。いや、ここの見極めをやるっていうのが、実は数学で練習はしてるんですよね。あの要領が、えーと、あの良くないって思う方、自分は良くないなあって思われる方、私も要領があんまりよくないところから、何とか這い上が、ろうとしてきてるので、なんとなくわかるんですけど、要領が良くない方を客観的に見ると、先ほど言ったどうしようもない所に取り組んでるんです。」
自分の力でどうしようもないことに悩むな、人生の浪費だ。誰もがそう思う。しかし、そう断言できるところが力強い。カリスマのカリスマたる所以である。
沖縄テーマパーク・プロジェクト
森岡氏はUSJの再建後、株式会社「刀」のトップとして丸亀製麺、グリーンピア三木、西武園遊園地など次々とV字回復させている。
そして今は沖縄にテーマパークを設立する構想を練っておられるらしい。そのビジョンが素晴らしい。沖縄から3時間圏内には、日本だけでなく発展中の東南アジアなどさまざまな市場、ざっと3億人の潜在顧客が住んでいるという。
世界的リゾート地と言えばハワイだが、そのハワイは3時間圏内には海しかない。しかしそのハワイは、アメリカ人が1960年代、数十年先を見越して開発したものである。森岡氏はアメリカ人がハワイに持ち込んだものは「戦略」と「投資」と、そしてなによりも「情熱」だったという。その結果、50年60年を経、ハワイはアメリカに大きな利益をもたらすことになったのだ。
今、日本は元気がない。しかし、日本が潜在的に持っているソフトパワー、コンテンツパワーは計り知れない。そして発展するアジアの中において、沖縄の立地の良さはハワイの比ではない。沖縄のテーマパークを、百年の計ならず、五十年の計でもって、日本のソフトパワーを引き出すきっかけの一つとしたいと、構想されているようだ。
ビジネスマンのビジョンかくあるべしと思う。
原動力、生きる原点 1995年
と、ここまではビジネス的な話だが、筆者が引かれたのは、そこまで森岡氏を駆り立てる原動力であり、原点となる体験である。
一言でいうと「良く生きる」というより「良く死ぬ」ために今日一日を生き抜くということだ。以下、ご本人の言葉を林修氏との会話の中から抜き出してみた。
「それは日本の中にある。日本人ならば、なんとか日本のために、ここをどうにかしたいと思うっていう、なんか、そういう仕掛けを自分たちが携わって、なんかうまくいくことができたならば、あ、なんか、あー、いろいろあっていっぱい、し、失敗したけど、まあよかったのかなって思って、たぶん死ねるだろうな。って思えるところが、今日がんばる力になるって、わかりますかね?」
「わかります、わかります。」
そんな森岡の志は大学時代に経験した阪神淡路大震災が大きく関係していた。
「もう、本当に数日前、一緒にお茶飲んでた人が、死んだんですよね。めちゃくちゃ能力が高くて、めちゃくちゃいい人だったんですよ。
「わ!人って死ぬんだ。」っていうこの理不尽ですよね。あの、死ぬのが怖いんじゃなくて自分が何もなさずに、死ぬのが怖い?何もしなくても人生終わるんですよ。
「人はこんな風に死ぬんだ」って言う経験を若いうちにされたことが、今のこの、「死ぬ時に」っていう、その気持ちにつながっているんですものね。
「そうですね、このせっかく生きてるんだから、なんか生きてるうちに、自分が生きた証って言うものを、残せるかどうかわからないけど、残すために悔いのない1日を過ごすっていうって言うことが僕の原点です。なぜならば、あの、生きてることが奇跡だなあって、あの時に思ったからですね。ま、失敗しない人生の方が、よっぽど大きな大失敗だって、理屈じゃなくて心底思えてるって景色ってのがあるんだっていうこと。自分の特徴だっていうところをうまく活かしながら、その目的を諦めずに、えー追いかけていく。この中で何かがやっぱり見えてくる、新しい景色が見えてくるっていうことの、私もその連続だった、ですね。」
「失敗しない(無難な)人生の方が、よっぽど大きな大失敗」。いい言葉である。
以上
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